『ロード・オブ・カオス』停滞に鮮血、それは絶望か希望か?

ロード・オブ・カオス(2018)
Lords of Chaos

監督:ジョナス・アカーランド(ヨーナス・オーケルンド)
出演:ロリー・カルキン、エモリー・コーエン、ジャック・キルマーetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

トーキョーノーザンライツフェスティバル2020を震撼させた『ロード・オブ・カオス』が2021/3/26(金)より日本解禁となる。本作はマコーレー・カルキンの実弟ロリー・カルキン、ヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマーが出演していたりと面白いキャスティングになっている本作を観てみました。

『ロード・オブ・カオス』あらすじ

ブラックメタル黎明期の中核的存在だったノルウェーのバンド「メイヘム」の狂乱の青春を鮮やかに描いた音楽映画。ノンフィクション「ブラック・メタルの血塗られた歴史」を原作に、ブラックメタル・バンド「バソリー」の元ドラマーで、「SPUN スパン」などで知られるヨナス・アカーランド監督がメガホンをとった。1987年、オスロ。19歳のギタリスト、ユーロニモスは悪魔崇拝主義を標榜するブラックメタルバンド「メイヘム」の活動に熱中していた。ボーカルのデッドはライブ中に自らの身体を切り刻むなど過激なパフォーマンスを繰り返し、彼らはメタルシーンで熱狂的な支持を集める。しかしある日、デッドがショットガンで頭を撃ち抜いて自殺してしまう。発見者のユーロニモスは脳漿が飛び散った遺体の写真を撮り、頭蓋骨の欠片を友人らに送付し、喧伝することでカリスマ化。「誰が一番邪悪か」を競い合うインナーサークルを作り、王として君臨するが、メンバーのヴァーグが起こした教会放火事件をきっかけに主導権争いが激化していく。ユーロニモス役に「スクリーム4 ネクスト・ジェネレーション」のローリー・カルキン。

※映画.comより引用

停滞に鮮血、それは絶望か希望か?

正直、ノルウェーのバンド「メイヘム」のことやブラックメタルのことは分からないし、本作を観ただけでは魅力を見出せなかったのでそういったことは他の人の感想を参考にしてほしい。自分は別の角度から感想を書いていく。

北欧といえば、ムーミンやベルイマンの映画のように内なる自分と闘う文化がある。冬は寒くて長い。それだけに気持ちが落ち込みがちな北欧において、建築面では陽光を沢山取り入れるガラスや白の色彩を使った技術が使われている。一方で、ヘヴィメタやエアギター、本作で描かれるブラックメタルなど空元気のような荒々しい音楽パフォーマンスが盛んに行われている。映画においては、特にデンマークが顕著だが暴力的な作品が量産されているような気がする。内なる陰鬱さを解放する避雷針のような役割を文化を担っているのではないだろうか?

「メイヘム」を描いた伝記的本作は、音楽伝記映画にもかかわらずテンションは一定を保っている。てっきり、ミュージシャンのドラマティックな人生が展開されるのかと思いきや、停滞に停滞を重ね、微かなステージに立つ時だけが盛り上がりの絶頂となっている。予告編でも魅せてくれる教会炎上シーンも、静かで地味だったりする。これはどういうことだろうか?先日観たデヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』に近いものを感じた。内なる暴力性の静かな爆発に癒しを求める者たちが停滞のモヤモヤの中で自己を解放させる場所を追い求めているのではないだろうか?彼らは満足しない。あまり客がこないレコード屋で駄話をし、部屋の一角で練習をする。一般人の平凡な人生と変わりない。その中で些細な変化を求める者たちのもがきが生々しく描かれている。だから、伝説的ミュージシャンの遠い世界の物語ではなく、我々の物語のようにみえるのだ。今、コロナで閉塞に押し込められ、微かな変化を求めてもがき苦しむ者にとってこの作品は救いの処方箋となることでしょう。

※映画.comより画像引用