【ネタバレ】『脳天パラダイス』:うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーの混沌を実写でやる?

脳天パラダイス(2019)

監督:山本政志
出演:南果歩、いとうせいこう、田本清嵐(タモト清嵐)、小川未祐、玄理(玄里)、村上淳、古田新太、柄本明etc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画祭シーズンが終わり、箸休めに何か映画館で観ようかなと思っている中、神の啓示が降りてきた。

「『脳天パラダイス』を観なさい。」

当時、Filmarksにはよく見かけるシネフィルの皆さんのご意見が上がっておらず謎の映画であった。しかし、監督名をみると、山本政志ではありませんか!トンデモナイカルト映画『ロビンソンの庭』の山本政志です。『水の声を聞く』でキネマ旬報ベストテンに選出される返り咲きを果たした彼が長い沈黙の末放った新作をイオンシネマ海老名で観てきました。あまりにもシュールで混沌とした作品なので、もし未見であれば私の感想は横に放り出してすぐに劇場へ行ってください。モノホンの混沌に感動します。

というわけで『脳天パラダイス』ネタバレ評書いていきます。

『脳天パラダイス』あらすじ


「ロビンソンの庭」「闇のカーニバル」などで知られる山本政志監督が、ある豪邸に集ったさまざま人たちの狂騒をハイテンションで描いたトランスムービー。東京郊外の大豪邸に暮らす笹谷一家。父・修次の破産により、一家はこの家を手放すこととなった。不甲斐ない父親にイラついている娘のあかねは、半ばやけくそ気味に「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください」と地図付きでツイートしてしまう。あっという間に拡散したこのツイートにより、数年前に恋人を作って家を出て行った元妻・昭子をはじめ、酔っ払いのOL、恋人を探しているイラン人、謎のホームレス老人などなど、さまざまな人びとが豪邸にやってくる。どんどん増え続ける珍客たちによって、豪邸はドンチャン騒ぎを超えた、狂喜乱舞の状態になっていく。演劇ユニット「コンプソンズ」の金子鈴幸が脚本を手がけ、南果歩、いとうせいこう、田本清嵐、小川未祐、柄本明らが顔をそろえる。
映画.comより引用

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーの混沌を実写でやる?

閑静な住宅街。

かつての豪邸は凋落の末錆びて草臥れている。引っ越し準備も整い、あとは業者を待つだけ。思い出が蓄積された場であるにもかかわらず、ゆうた(田本清嵐)、修次(いとうせいこう)、そして娘のあかね(小川未祐)の心はバラバラである。あかねは半ばヤケクソで、Twitterでパーティ開催の告知を行うと同性愛カップルが結婚式を行ってもらえると勘違いしてやってくる。そして、いつしか家が磁場となり次から次へとどこの馬の骨か分からない連中が侵入していく。まさしく、侵入者が多すぎる『パラサイト 半地下の家族』なのだが、よくある家侵入ものとは一線を画している。

やってくる訪問者がおかしいのだ。ケシの実を大量に採取し、地下室でマツモトキヨシを超えるモノホンのドラッグストアを作ろうとするジャンキーや西洋の彫刻を大仏だと信じてやまないお爺さん、 ゲロまみれの子ども、そして花札勝負をしにはるばるやってきたヤクザ、コバンザメ方式で突然屋台を建てる者、勢い余って家の中にドトールを開店し、コーヒー豆の怪物から抽出した極上のコーヒーを提供し始める者と曲者が会場間違えてアッセンブルするのだ。終いには安部公房の世界からログインする猛者まで現れる。ブランコから降りれない少年は、木の棒になってしまい、猫から特殊な水をかけないと元に戻らないよと言われ、オカンがよしよしと面倒をみながらこの家にやってくるのだ。突然の『棒になった男』要素に困惑するだろう。

そして気がつけば、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』で描かれた混沌の文化祭がそこに爆誕しているのだ。そして生と死の垣根が消失する。柄本明演じる狂ったおじいさんは、ぽっくり死に、そして蘇る。その奇跡をイエスキリストと重ね合わせ、自らを神として崇めてもらおうと会場のバイブスを上げていくのだ。元来、同性愛者の結婚式がメインであったにもかかわらず、2名の死者を弔うお葬式へと発展していき、ドラッグ入りのお焼香により『CLIMAX クライマックス』さながら絶叫と興奮の霧に覆われていく。その横でカップルはアイスピックを抜き差しする鮮血の結婚式が開催される。まさしくフジロックフェスティバルだ。それぞれの会場で壮絶なパフォーマンスが繰り広げられているのだ。

肝心な例の家族はというと、ニート息子が何故か家の中に爆誕したドトールに就職するものの、ピッチャーでコーヒーを回し飲みする家族にドン引きして、独立宣言を行う。だが、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』よろしくコーヒー豆の怪物が人間を捕食し始めるのだ。

本作は『逆噴射家族』、『お葬式』、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』等といった映画の要素をDJがごとくサンプリングして山本政志にしか生み出せない世界を紡ぎ出す。そのセンスに圧倒される。序盤、台湾人家族が「もう少し我慢しな。面白くなるから。」と語る。まさしくライブやオフ会が盛り上がるまでには時間を要することを体現している。小さな狂気をチマチマ、時に豪快に積み上げていき、会場が夜になると観る者を飲み込む混沌の渦に突き落とす。

その中では生も死も共存し、男が就職して一人前になって、成熟して朽ちていくある種の栄枯盛衰が見え隠れする。つまり、本作は家が持つ走馬灯なのだ。寂れた家の歴史という地層をぶった切って観客に魅せつける。その磁場にとことん魅了され続けた。

コロナ禍に公開されたことも重要であり、ヤケクソの娯楽の頂点。丁度、世界恐慌当時豪華絢爛なミュージカル映画がハリウッドで流行ったのに近い狂気の熱気を感じる一本でありました。

こんな映画が全然Twitterで注目されていないのは意外でしょうがない。

※映画.comより画像引用

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