『プロメア』業火豪華の残暑見舞いに半沢直樹がログインしました

プロメア(2019)

監督:今石洋之
出演:松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人、佐倉綾音、吉野裕行、稲田徹、新谷真弓etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『キルラキル』、『BNA ビー・エヌ・エー』のTRIGGERが放つカルト映画『プロメア』がAmazon Peime Videoで配信されたので観てみました。公開当時、試写で本作をみた友人が「声が全く聞き取れないんだが」と苦言を呈していた作品。確かに、非声優の人の演技が致命的な作品なのだが、その粗をパワーで押し退ける傑作であった。

『プロメア』あらすじ


「天元突破グレンラガン」「キルラキル」を生み出した今石洋之監督と脚本家の中島かずきが再びタッグを組んで送り出す、完全オリジナルの劇場用アニメーション。突然変異で誕生した炎を操る人種「バーニッシュ」の出現をきっかけに、未曾有の大惨事である「世界大炎上」が起こり、世界の半分が焼失した。それから30年後、一部の攻撃的なバーニッシュが「マッドバーニッシュ」を名乗り、再び世界を危機に陥れる。これにより、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」の新人隊員ガロと、マッドバーニッシュのリーダー、リオという、それぞれ信念を持った熱い2人の男がぶつかり合うことになる。主人公ガロに松山ケンイチ、宿敵リオに早乙女太一、そしてガロの上司クレイに堺雅人と実力派俳優が声の出演。アニメーション制作は「キルラキル」も手がけたTRIGGER。
映画.comより引用

業火豪華の残暑見舞いに半沢直樹がログインしました

クローネンバーグのように怒りが具現化される。満員電車、渋滞、授業中の私語等々といったストレスが突如、人体発火を引き起こすようになる。そして発火する人(=バーニッシュ)と非バーニッシュとの軋轢が人類に新たな歴史を刻み込み、落ち着きを取り戻しつつある30年後が本作の舞台となる。バーニッシュは組織化され、人々を襲う。それを高機動救命消防隊《バーニングレスキュー》の個性的な面々がサポートする。前のめりで、強大な敵であろうと正々堂々と戦おうとする。敵を目前に長々と演説をし始めるガロ(松山ケンイチ)をサポートするように、空中のアイナ(佐倉綾音)、冷静沈着なレミー(吉野裕行)、怪力バリス(稲田徹)、マッドサイエンティスト・ルチア(新谷真弓)、リーダー・イグニス(小山力也)にマスコット・ビニー(ケンドーコバヤシ)が連携する。キャラクターを紹介しつつ、空から地上から、業火の内側/外側から彼らの活躍を捉えるこのシークエンスだけで観る者は『プロメア』の世界に引きずりこまれるのだ。そして、マッドバーニッシュの親玉リオ(早乙女太一)を捕獲するも、手柄を横取りされたことから、国家規模の陰謀に巻き込まれてしまう。

本作は、問題だらけの作品だ。一番致命的なのは、俳優の演技である。よく、映画の吹き替えでお笑い芸人が演じるとバッシングされるが、アニメにおいて俳優を配置するのも似たような危険性を持っていることがよく分かる。松山ケンイチは、熱血でありながらも声にアニメ的魂が入っていない問題があれどそれはまだ及第点だとして、早乙女太一の冷静沈着すぎて、アクションシーンでは音楽に声が掻き消され気味な部分は映画として厳しいところがある。

また、本作のラスボス・クレイ・フォーサイト役に堺雅人役が充てがわれているのだが、堺雅人は常時叫ぶような人ではないし、堺雅人色が強すぎる。なので、映画を観ているとクレイ・フォーサイトだけ異世界転生した半沢直樹にしか見えない問題が噴出してしまうのだ。確かに、本作は火と水の関係をユニークに配置する作品である。バーニッシュは水のような冷静さを持っており、反対に消火活動に携わる者は業火のように燃えている。だから声のトーンの強烈な差として松山ケンイチ、早乙女太一、そして堺雅人を配置するのはある種の正解ではあるが、あれだけの熱くカッコいいアクションとドラマを魅せておきながら画に俳優が負けてしまっているのは擁護できなかったりする。

また、ストーリーもパワープレイであるのである意味リアルではあるが、粗に満ち溢れている。例えば、仕事終わりにピザ屋で打ち上げをする場面。ガロは露骨にバーニッシュ差別をしているのに、美味しいピザを作る男がバーニッシュだと分かった瞬間手のひらを返して、バーニッシュに情を向けるダブルスタンダードな振る舞いは、人間味があるものの映画としてはあまりに露骨な手のひら返しである。また、上映時間の関係でレスキュー隊員の連携が魅せきれておらず、個性的なメンバーがただのモブキャラに成り下がる勿体無さがあります(ルチア・フェックス周りの描写が個人的にもっと観たかった※単なる新谷真弓の飄々としたヴォイスが好きなだけです)。

こう粗は目立つが、それでも本作は夏休みに観るのにぴったりサイコーの残暑見舞いであることには変わらない。澤野弘之の『Inferno』が流れる中で死闘を繰り広げる者たち、ポリゴン風の爆風に、線描写、歌舞伎のようなキメポーズに啖呵啖呵啖呵の釣瓶打ち。徹頭徹尾、竜頭蛇尾なることなく疾走するこの物語を映画館で観逃した私はなんて勿体無いことをしたのだろうと後悔しました。
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