『DAU. STRING THEORY』能ある鷹は罪を隠す

ダウ.ストリング・セオリー(2020)
DAU. STRING THEORY

監督:イリヤ・フルジャノフスキー、Aleksey Slusarchuk
出演:Nikita Nekrasov、Ekaterina Uspina、Zoya Popova etc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

《DAU》ユニバースは、ソ連時代に熟成された人々のクズさをひたすら捉えている。シリーズを追うごとに果たして10本以上かけて本作を作る必要があったのか?インスタレーションのおまけにしては、膨大なキャストを送り込んだ意味をユニバースから感じ取ることができないという問題が浮かび上がってきた。それでも、最後まで付き合おうと決めた以上、時間を見つけて新作を追っている。『DAU. STRING THEORY』も『DAU. NATASHA』には遥か及ばない作品であったが、久しぶりに歯ごたえある問題作であった。

『DAU. STRING THEORY』あらすじ


Nikita Nekrasov is a scientist, a theoretical physicist who studies our world and other possible worlds. He refuses to make a choice between mathematics and physics, between one woman and another, as he ponders the existence of the multi-universe. At scientific conferences, attended by eminent foreign scientists and a rising younger generation of physicists alike, Nekrasov gets carried away debating the beauty of string theory. He attempts to explain to all of his women – Katya, the librarian, Zoya, the scientific secretary, Svetalana, the head of department – about the theory of his own polygamy, and the possibility of having enough feelings to satisfy everyone.
訳:ニキータ・ネクラソフは科学者であり、理論物理学者であり、我々の世界と他の可能性のある世界を研究している。彼は数学と物理学の選択を拒み、一人の女性ともう一人の女性の間で、多元宇宙の存在について考えている。海外の著名な科学者や若い世代の物理学者が参加する科学会議で、ネクラソフはひも理論の素晴らしさを議論することに夢中になる。彼は、司書のカチャ、科学秘書のゾヤ、部長のスベタラーナなどの女性たちに、自分の一夫多妻説と、誰もが満足できるほどの感情を持つことの可能性について説明しようとする。
DAU公式サイトより引用

能ある鷹は罪を隠す

文系が知る限り物質を極限まで小さな存在として捉えた時、実は点ではなく線なのでは?で有名な超弦理論。その研究をしているNikita Nekrasovが学者たちと熱い物理討議を繰り広げている場面。一方で、複数の女性を多目的に弄ぶ場面。それを交互に描き重ね合わせる本作は、能ある鷹は爪を隠すのではなく《能ある鷹は爪を隠す》のだということを強調した風刺映画となっている。物理の世界で理論的にこの世を理解する男が、プライベートの世界ではその物理の理論を悪用して自分の都合よく女をコントロールする。確かに、物理は論理的には立証し難い現象を理論に落とし込む側面がある。目に見えないものを理解する為に、難解な方程式を並べ、学者同士の共通の定義のもとに世界を理解しようとする。それに取り憑かれた男が、不倫をする口実として多元宇宙やら重ね合わせやらの理論を応用させて自分を正当化しようとする、アンジャッシュの渡部建なんかよりもずっとタチの悪い言い訳を延々と聞かされる地獄がそこにはある。

厄介なことに、本作は風刺なのか監督の素なのかがわからない怖さを孕んでいる。監督はセクハラパワハラ疑惑を持たれているのだ。なので、本作で描かれる理論を使って女をねじ伏せようとする姿は、監督の分身のようにも捉えることができて、その複雑な構成がより一層本作における《能ある鷹は爪を隠す》な側面を強調させ、それが面白さに繋がってしまっている異常さがある。

世界はひものねじれで繋がっているらしいが、この虚構と現実が歪に結合している世界は2020年最も凶悪な超弦理論として悪名を轟かせることでしょう。相変わらず、撮影演出がワンパターンでイリヤ・フルジャノフスキー監督の技術の限界を感じるのだが、本作は必見の作品であります。

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