『オールド・ジョイ/OLD JOY』ヴァカンスを楽しめない男/癒しを与え続ける男

オールド・ジョイ(2006)
OLD JOY

監督:ケリー・ライヒャルト
出演:ダニエル・ロンドン、ウィル・オールダム、タニヤ・スミス、ロビン・ローゼンバーグetc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2020年はケリー・ライヒャルトの年にしたいチェ・ブンブンです。先日クライテリオンから出ているブルーレイ『OLD JOY』のパッケージがイカしていたので購入しました。衝撃のデビュー作『River of Grass』から12年の沈黙を破って登場したこの長編映画は、おっさん2人が秘境の温泉を目指してゆるキャン△するだけの作品でありながら、大人のぽっかりと空いた、もとい《空きそうになっている》穴をじっくりと練りこんでいった素晴らしいロードムービーでした。

『OLD JOY』あらすじ


Two old pals reunite for a camping trip in Oregon’s Cascade Mountains.
訳:オレゴン州のカスケード山脈でのキャンプ旅行のために2人の古い仲間が再会します。
IMDbより引用

ヴァカンスを楽しめない男/癒しを与え続ける男

大人になると複雑に絡み合う柵によって、かつてのように友情を分かち合うことは難しい。マークは友人とキャンプをするため準備している。しかし、妻はそんな夫をよく思っていないらしく、鋭い嫌悪の眼光を彼に向けている。トボトボ車を走らせるマーク。旧友カートと会うのに、そこには旅に集中できない姿があった。カートと再会するマークは、いざカスケード山脈の奥にある温泉を目指す。

カートは友人との再会を喜び、スーパーでビールを買い、昔のようにマークに投げるが、反射神経で彼はカートにビールを投げ返してしまう。

カートは会話がしたい。あれからどうだったか?他愛もない会話をしたい。しかし、マークはそれを受け止めてくれない。常に、心は別のところにあるらしいし、頻繁に妻からの電話に出て苦い顔するばかりだ。

カートは都会の喧騒とした世界から逸脱したい。携帯なんかほっぽりかして、紙の地図を辿り、運命に従い秘境にたどり着きたい。それをマークは答えてくれないのだ。

「それでもいいんだ」

とカートはひたすらマークの心の膿を取ろうとするのだ。

かがり火を囲い、お互いのプライベートを語り合い、温泉ではマイナスイオンが漂う淡緑の空間で癒しの湯を嗜み、ビールを飲む。大自然で飲むビールは美味い。そして遂にカートはマークにマッサージをする。カートは癒しの底で段々と魂が浄化されていく。

しかし、旅の終わりが近づくとカートは段々と寂しさを全身に覆い始めるのだ。マークと別れたカートの仕草でようやく観客は、この行って帰ってくる何気ない週末旅行映画にとてつもない切なさを感じる。これは、もはや別々の道を歩み、完全に交わることのなくなってしまった者の悲劇だと。

現代社会、人間関係はほんの数ヶ月、数年で変わってしまう。もはや家庭をもってしまっているマークと実は孤独な私生活を送っているカートは昔のように和気藹々子どものようにじゃれ合うことはできないのだ。

陽光が緑に反射して、フレームの外側にいる我々に向かってマイナスイオンが差し込み、Yo La Tengoの音色が心に染みる。そこへ、大人の哀愁の苦味が広がっていく。個人的にベストケリー・ライヒャルト映画へ上り詰めました。

ケリー・ライヒャルトベスト

1.OLD JOY(2006)
2.ミークス・カットオフ(2010)
3.ウェンディ&ルーシー(2008)
4.River of Grass(1994)
5.ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択(2016)
6.ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画(2013)

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