『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』恋も創作も傲慢になってしまった者に捧ぐ寓話

ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから(2019)
Mon inconnue

監督:ユーゴ・ジェラン
出演:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラヴェルネetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年、フランスの観客動員数ランキングを分析する中で気になっていた『Mon inconnue』が《ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから》という邦題で日本公開が決まりました。新型コロナウイルス蔓延の影響で、5/1(金)から時期未定の公開延期となりましたが、配給会社さんの計らいで幸運なことにオンライン試写で観させていただきました。本作は、恋に創作に傲慢になってしまった男が、純粋な気持ちを取り戻すまでのラブロマンスであり、元気がもらえる一本です。というわけで紹介していきます。

『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』あらすじ


「あしたは最高のはじまり」のユーゴ・ジェラン監督が、最愛の女性が自分のことを知らない、もう1つの世界に迷い込んでしまった男性を描いたフランス発のファンタジックラブストーリー。高校時代に出会い、一目ぼれから結婚したラファエルとオリヴィア。人気SF作家として多忙な毎日を送るラファエルと、小さなピアノ教室を運営するオリヴィアの夫婦生活はすれ違いが続いていた。オリヴィアと大ゲンカをした翌朝、ラファエルは見覚えのない部屋で目を覚ます。そこは夫婦の立場が逆転した“もう1つの世界”で、ラファエルはしがない中学教師、そしてオリヴィアは人気ピアニストで、ラファエルのことを知らなかった。主人公ラファエルを「私の知らないわたしの素顔」のフランソワ・シビル、オリヴィアを「最後のマイ・ウェイ」のジョセフィーヌ・ジャピがそれぞれ演じる。
映画.comより引用

恋も創作も傲慢になってしまった者に捧ぐ寓話

甘酸っぱい恋も、ワクワクドキドキするような創作活動も永遠に続くと思った瞬間風化してしまう。

授業時間、空想を膨らませてSF小説を書いているラファエルは夜の学校で美しき同級生オリヴィアと出会い、胸躍るような逃走劇を経て恋仲となる。そして、創作活動に理解ある彼女とラファエルは相思相愛のカップルとして、人生の華道を駆け上がる。

公園のベンチには、
Ici,Olivia et Raphaël sont tombés amoureux dans les pommes.
(ここでオリヴィアとラファエルは気が吹っ飛ぶような恋に落ちた)

と痕跡をつける。

クリエイティブな二人は、ジョルジュ・サンドが《気を失う》という状況を言い表すために開発した《tomber dans les pommes.(りんごの中に落ちる)》という表現を使って、熱々な恋を記した。りんご飴をフランス語ではPomme d’amour(=愛のりんご)と言うように、りんごは恋の象徴である。

彼は成功を収めていく。ラファエルは売れっ子SF作家になっていくのだ。それを追うようにオリヴィアもピアノ教室の先生をやりながら名ピアニストを目指していく。しかしながら、『ラ・ラ・ランド』でも描かれたように仕事の成功と恋の成功を共存させることは難しい。段々と二人が倦怠期に陥っていくところから物語は始まる。

ラファエルはすっかり、恋に冷めてしまった。いや訂正しよう。オリヴィアを愛すれども片手間に接している状態だ。そして小説家として成功していることに胡座をかいている。つまり、恋にも仕事にも傲慢になってしまっている。そして無意識に彼女のことを邪険に扱っていることを小説に投影させてしまう。

あれだけ彼女の分身として描いてきたヒロインのシャドーを物語の中で殺してしまうのだ。

それを読むオリヴィアは悲しみの顔を隠せていない。

それが決定的な変化をもたらした。そしてこの珍事が彼の傲慢さを洗い出して突きつけていく。

翌日、ラファエルが目覚めると世界は変わっていた。彼は学校に向かい生徒に、質問を受け付けるのだが、自分の小説について訊いてくれず、シェイクスピアなんかについて質問し始める。ここでシェイクスピアを、古典を見下す彼の醜態が暴露されてしまう。そして、小説の映画化の打ち合わせで会社に向かうのだがここでも彼の傲慢さが露見し、会社を追い出されてしまう。そしてようやく、この世界はオリヴィアとラファエルが恋に落ちなかった世界だということに気づくのだ。

失って初めて彼女が人生にとって永遠に必要不可欠な存在だったことを知るラファエルは、なんとかして再び彼女と恋仲になろうとする。しかし、その行動がこれまたあざとい。マルセル・プルーストが失われた時を求めるようにマドレーヌをタイムマシンとして使ったことにインスパイア受けて、彼女にマドレーヌを食べさせれば元の世界に戻れるのでは?と考えたり、本心をなかなか伝えず嘘でもって彼女に近づこうとしたりするのだ。しかし、彼女との思い出のカケラを一つずつ集めていくうちに、彼の傲慢さは少しずつ氷解していく。

これは、恋に仕事にかつての熱量を失い、築き上げた土壌に胡座をかいてしまっている人への処方箋だ。

どん詰まりな人生に光が差し込み、明日も頑張ろうという気持ちにさせてくれる。

ワクワクした人生、ドキドキする恋を欲しているそこの貴方にオススメな一本です。

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