【しまじろう映画研究2】『しまじろうとえほんのくに』喧嘩するのは悪いこと?

劇場版しまじろうのわお! しまじろうとえほんのくに(2016)

監督:平林勇
出演:南央美、高橋美紀、山崎たくみ、杉本沙織、稲葉実etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

平林勇監督のしまじろう映画研究2本目は、これまた児童物語の定番《絵本の中に吸い込まれる系》であります。このジャンルで言えば、昨年『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』が大人にも大ウケなカルト映画になりましたが果たして…

『劇場版しまじろうのわお! しまじろうとえほんのくに』あらすじ


ベネッセコーポレーションの幼児向け通信教育教材「こどもちゃれんじ」の人気キャラクター、しまじろうと仲間たちが繰り広げる冒険を描く劇場版第4弾。ある日、しまじろうたちは1冊の不思議な絵本を海辺で発見する。それは、しまじろうがまだ小さいときに大切にしていたものだった。すると、どこからかしまじろうたちを呼ぶ声が聞こえてきて、彼らは絵本の中に吸い込まれてしまう。しまじろうたちはそこで出会った可愛らしい生き物「プニたん」と一緒に、絵本の国を救う旅に出る。映画館が初めての小さな子どもでも安心して楽しめるよう、登場人物たちと一緒に歌ったり踊ったりして参加できるような工夫や、劇場内を完全に暗くしない、途中休憩をはさむなどの配慮もなされている。
映画.comより引用

喧嘩するのは悪いこと?

子ども映画に求められることはなんだろうか?それは柔軟な発想だと感じている。《シカクいアタマをマルくする》と日能研は語っているが、子ども映画では大人のシカクい頭が生み出すクリシェを否定することで面白さを出す、そこに監督の業がかかっているといっても過言ではない。『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』では、本のページの破れから他のページに移動するというギミックを通じて《読書》とは何なのかという本質を突いていたと言えるが、その原点とも言えるのが本作である。本作では、幼少期のしまじろうが、絵本の住人をイマジナリーフレンドに見立て、落書きをすることで対話する演出が施されている。通常、本に落書きはタブーだとされているが、幼児の想像力を養うためには落書きも許容されるべきなのではといった考察が映画の中でされるのです。

本作は、大人の常識に対して否定することで親の視野を広げる哲学的な内容となっている。開始早々、絵本の世界では抗争が勃発している。王様とお姫様は、喧嘩についての是非を議論するのだ。通常であれば、喧嘩することは悪だとなってしまうのですが、お姫様は「喧嘩もいいじゃない。後で仲直りすれば万事OKだ」という説を唱える。確かに、喧嘩はネガティブなイメージがあるが、喧嘩とは人の心の奥をさらけ出すもの。心の内と内を見せ合い、相互に妥協点を見出し、着地することで仲は深まるのです。大人の世界であっても、喧嘩を恐れて当たり障りのないことを言い合うよりも、喧嘩しあって妥協点を見出していくほうが良い仕事は生まれる。それこそ喧嘩がいけないとなるのは、戦争のように大勢の死傷者を出してしまうケースが念頭にあるからだろう。非常に難しい話であるが、ミクロな視点では喧嘩は推奨されるが、マクロな視点での喧嘩は問題となる。本作は、ミクロな視点での喧嘩に着目し、喧嘩=悪という概念を取り払うことに注力していると言えよう。

さて、本の世界に吸い込まれたしまじろうたちは、かつて自分たちが落書きした存在と対峙したり、ページの狭間から他の世界に行ったり、本を読む立場から本を読まれる立場になるといったシュールな世界を冒険することで、己の内なる世界と対峙していく。そして、絵本の住人は絵本から出ることは許されないという掟を守りつつ、自分の過去を思い出という名の宝石にしていくのだ。

子ども映画ナメるでなかれ!非常に奥深い世界を味わうことができる一本である。

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