『カセットテープ・ダイアリーズ』フレディ・マーキュリーになれなくたって、音楽は、詩は掴める!

カセットテープ・ダイアリーズ(2019)
Blinded by the Light

監督:グリンダ・チャーダ
出演:ヴィヴェイク・カルラ、ヘイリー・アトウェル、ロブ・ブライドン、クルヴィンダー・ジルetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、Twitterを眺めていたら『カセットテープ・ダイアリーズ』という面白そうな音楽青春映画があることに教えてくれました。『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダが手がける本作は、イギリスのパキスタン移民の苦悩を反映した青春もの。彼女はケニア生まれイギリス育ちのインド系移民。そんな彼女は1989年にイギリス二世のアジア人が撮った初めての映画『I’m British But…』で70年代からイギリスで流行したバングラ音楽(インド、パキスタンの伝統的な舞踏)による英国とアジアの文化的交わりを記録し、注目されました。彼女はイギリスに住むアジア人として初めて長編映画『Bhaji on the Beach』を作り、その後『ベッカムに恋して』、『パリ、ジュテーム (セーヌ河岸の話を担当)』、『英国総督 最後の家』と作品を作り続けて女性監督としても移民監督としても十分な地位を築きあげました。そんな彼女が実話をベースに原点回帰した『カセットテープ・ダイアリーズ』は、フレディ・マーキュリーのようなカリスマはなくても音楽を自分のものにし、詩を掴めることを証明して魅せた甘酸っぱい作品でした。

『カセットテープ・ダイアリーズ』あらすじ


In England in 1987, a teenager from an Asian family learns to live his life, understand his family and find his own voice through the music of American rock star Bruce Springsteen.
1987年のイングランドでは、アジアの家族の10代の若者が、アメリカのロックスターであるブルーススプリングスティーンの音楽を通して、自分の人生を生き、家族を理解し、自分の声を見つけることを学びます。
imdbより引用

フレディ・マーキュリーになれなくたって、音楽は、詩は掴める!

QUEENのフレディ・マーキュリーはタンザニア生まれ、インド育ち、そしてザンジバル革命の影響で家族共にイギリスへ渡ってきた。

そして自分の名前ファルーク・バルサラを捨て、タンザニア人、インド人としてのアイデンティティを捨て、スター街道へと駆け上がっていった。『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていたが、イギリスではパキスタン人差別が横行しており、例えパキスタン人でなくても「Paki!(パキ野郎)」と罵られる状態が続いていた。

本作は、フレディ・マーキュリーになれなくたって、音楽は、詩は掴める!と一般人の視点から音楽とアイデンティティの関係を描いた作品である。主人公のジャヴェッドは幼少期からロンドン近郊の町ルートンで暮らしていた。だからパキスタン人としてのアイデンティティはなく、学校の同級生同様UK音楽大好き少年だった。しかし、そんな彼は頻繁にパキスタン人としてのアイデンティティを突きつけられて抑圧されている。外はイギリスなのに、一歩家の中に入ればパキスタンのしきたりが支配している。音楽も厳しく制限され、パキスタンらしさ全開なムードに耐えなければならない。そして、家の外側も危険だ。移民に反感を抱く者は嫌がらせをしてくる。町に「PAKiS OUT(パキ野郎は出て行け!)」と落書きされ、家にはションベンをかけられてしまう。だからジャヴェッドは目立たないようにしていた。

そんな彼は文学の授業のレポートでCをとってしまう。実は先生には見透かされていて、「あなたの話をもっと読みたいわ。だからちゃんと自分を書いて!」と言われる。そして、ひょこんなことから友達になったループスからThe Bossことブルース・スプリングスティーンのカセットテープを借りる。夜な夜な、彼の音楽を聴き、彼は覚醒。自分の思いのまま詩を書くようになり、差別的な文芸サークルにもゴリ押しで入ろうとするのだ。そして、差別や家族というしがらみに闘いつつ自分の青春を掴んでいく。

音楽を聴くと、世界が開けることをプロジェクションマッピングや飛び交うリリックで表現してみせる開放感。そして、友情パワーで次々と押し寄せてくる差別を乗り越えていくジャヴェッドの姿が美しい。王道青春映画でありながらも、青春の輝きをひたすらにブラッシュアップしていこうとする様にグリンダ・チャーダの人柄の良さが現れている。そして、二世として血縁の文化をバカにするのではなく、線引きをしながら一定の距離を置くことに注力しており、洋楽サイコースノビズムに陥っていないところも好感が持てます。

この距離感の築きかたは、是非とも高校生や大学生に観て欲しい。学校生活が息苦しい人に刺さるサイコーのサプリメントと言えよう。

尚、昨年の東京国際映画祭で上映された時点で既にポニーキャニオン配給が決まっていたので、そのうち日本公開されると思います。
邦題『カセットテープ・ダイアリーズ』として2020/4/17(金)公開が決定しました。

参考資料

Chadha, Gurinder(BFI)
The Big Interview: Bend It Like Beckham director Gurinder Chadha(The Stage,Mark Shenton,Jun 28, 2015)

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