プティ・カンカン2/クワンクワンと人間でないモノたち
原題:Coincoin et les z’inhumains(2018)
英題:Coincoin and the Extra-Humans
監督:ブリュノ・デュモン
出演:アラヌ・ドゥラエ、リューシー・カロン、ベルナール・プリュヴォストetc
評価:99点
おはようございます、チェ・ブンブンです。カイエ・デュ・シネマが愛して病まない鬼才・ブリュノ・デュモン。ここ最近は、テレビドラマだろうが続編だろうがとにかく新作を出せば年間ベストテンにねじ込むほどカイエは彼に溺愛している。彼の作風は、フランスの地方都市を舞台に、俳優陣も素人ばっかりで構成されているにもかかわらず、唯一無二の異次元を作り出してしまうところにあります。デヴィッド・リンチが映画を作らなくなり、多くの映画ファンがリンチロスに陥っている中、最もリンチ的混沌を描ける監督としてブンブンも注目しています。さて、この度2018年のベストテンで2位に選ばれたテレビシリーズ『Coincoin et les z’inhumains』(直訳すると《コワンコワンと超人類》)をブルーレイ買って観ました。本作は2014年の『プティ・カンカン』続編であります。『プティ・カンカン』を観たときは、そこまで惹かれなかったのですがこのパワーアップした続編にはトコトンのめり込んでしまいました。というわけで、今日は本作の魅力について語っていきます。
※JAIHOで2021/8/16邦題『プティ・カンカン2/クワンクワンと人間でないモノたち』として配信が決まりました。
『Coincoin et les z’inhumains』あらすじ
Quinquin is now a grown-up and goes by the nickname CoinCoin. He hangs out on the Côte D’Opale and attends meetings of the Nationalist Party with his childhood friend Fatso. His old love, Eve, has abandoned him for Corinne. When a strange magma is found near the town, the inhabitants suddenly start to behave very weirdly. Our two heroes, Captain Van Der Weyden and his loyal assistant Carpentier, investigate these alien attacks. The Extra-Human invasion has begun.
訳:カンカン大人になり、今やコワンコワンというニックネームで知られるようになりました。彼はコート・ドパルにたむろし、幼なじみのファッツォとの国民党の会議に出席します。彼の古い愛であるイブは、コリンのために彼を捨てました。町の近くに奇妙なマグマが見つかると、住民は突然非常に奇妙な振る舞いを始めます。 2人のヒーロー、キャプテン・ヴァン・デル・ウェイデンと彼の忠実なアシスタント・カーペンティエは、これらのエイリアンの攻撃を調査します。超人類による侵略が始まりました。
映画的世界の乱反射がベトベトンを輝かせる
ブリュノ・デュモンは、一見ゆるゆるガバガバに見えて非常に計算され尽くした逆張りが特徴的だ。『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期』では、19世紀の世界観にヒップホップやブレイクコアの文化を持ち込むことで、子どもの大人に対する反抗を強調し、神聖化されたジャンヌ・ダルクを民話にしてみせた。そんな彼はいきなり、『キートンの蒸気船』のリメイクを始めるところから語ってみせる。家からコワンコワンが出てくる。すると、奥から男が突進してくるのだが、彼はヒラリとかわし、彼は奥へ。さらに男が突進してきて、小屋に激突する。すると壁が落ちてきて、彼は潰されると思いきや、空きスペースに立っていたので生還するのだ。古典的なコミカルギャグを冒頭に提示することで、ブリュノ・デュモンのテーマが提示されるのだ。今回は、映画における非日常とは何かを深掘りしていく。
通常、映画の世界でも車は《走るもの》として認識されているが、近年のカーアクション映画が車を車として使わないことにインスピレーションを受けたためか、パトカーを運転するカーペンティエは常時片輪走行、爆走、ドリフトしかしていません。また、頭上から漆黒のベトベトンが落ちてきて、街はパニックになるのかと思いきや、「あっベトベトだ、くそっ」と言うだけで、平然としているのだ。
そして事態はドンドン悪化してくる。
黒いベトベトンは光を放ち、住民に寄生し始める。寄生された人は、お尻から全く同じ個体が出現する。まさしく『ボディ・スナッチャー』そのものである。ただ、本作が変なところは、宿主とそこから生まれた物体Xは同じ空間に共存できるのです。何事もなく、日常を繰り返す。全く同じ存在。しかしながら、この映画の登場人物の知能指数は異様に低い。憲兵キャプテン・ヴァン・デル・ウェイデンですら「うぇ」と常に変な声をあげながら、街を徘徊しているだけなのです。『ボディ・スナッチャー』は主人公以外、侵略に気づかない恐怖を描いているのだが、本作は侵略に気づいていながらも、侵略に気づかないように動く滑稽さが滲み出ているのです。
これにより、3時間にも及ぶシュールなコントが次々と展開され、観たこともないような混沌を呼び覚まします。自分の分身と、電話でディスカッションバトルをする場面では、顔のドアップを交互に展開するだけで同じ人物が演じているのに、全く違う二人がディスカッションバトルしているように見えてくる。唐突に現れるゾンビ、自分の分身を仕留めるために死角のギリギリから狙うショットの滑稽さ、物体Xが演説をするのだが、その締まりのなさ。エンディングの度肝を抜かれる超展開などなど…
『ツイン・ピークス The Return』完走後に感じた、もう二度とあの異次元を楽しむことができない喪失感を本作はひたすら満たしてくれました。
日本だと、アンスティチュフランセの特集上映でしか観られそうにない作品ですが、観賞機会があれば是非挑戦してみてください。別に前作観ていなくても楽しめる一本です。
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