ブンブンシネマランキング2019旧作部門
さて、今年もやってきましたチェ・ブンブンシネマランキング。今年は映画超人の済藤鉄腸(@GregariousGoGo)、Knights of Odessa(@IloveKubrick)に触発されて、未知なる映画をひたすら追い求めていきました。今年は、ドキュメンタリー映画、実験映画にあたりを見つけることができました。ってわけで、ブンブンの2010年代最後の旧作ベストテンを発表します。
・【ブンブンシネマランキング2019】ワースト部門1位は『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』
※タイトルをクリックするとレビューに飛べます。
もくじ
- 1 1.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(C’era una volta il West)
- 2 2.囚われの女(LA CAPTIVE)
- 3 3.ダゲール街の人々(Daguerréotypes)
- 4 4.眠狂四郎 勝負
- 5 5.宇宙へのフロンティア(For All Mankind)
- 6 6.私が女になった日(THE DAY I BECAME A WOMAN)
- 7 7.GIRL WALK//ALL DAY
- 8 8.シティ・オン・ファイア(City on Fire)
- 9 9.ノベンバー(November)
- 10 10.シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳(Simone Barbès ou la vertu)
- 11 →NEXT:11位~20位
1.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(C’era una volta il West)
監督:セルジオ・レオーネ出演:チャールズ・ブロンソン、クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェイソン・ロバーズetc
時間が細分化され、時間に急かされている現代が忘れてしまった、分割されていない豊穣な時間をセルジオ・レオーネは掴んだ!チャールズ・ブロンソン演じるハーモニカを倒す為に、いかにもな悪党が駅にやってくるも、彼らは”彼”を待たねばならぬ。ハエと表情で戦いながら時が来るのを待つ。しかし、決戦の火蓋は数分で切って幕が閉じてしまう。西部開拓史において命が尽きるのは一瞬なのだ。そして豊穣な時の世界で人が収斂していく。なんて豊かな映画なんでしょう。
2.囚われの女(LA CAPTIVE)
監督:シャンタル・アケルマン
出演:スタニスラス・メラール、シルヴィー・テステュー、オリヴィア・ボナミーetc
永遠に意見が合わない女と男。それはガラス越しに、身体について語るところからも明らかな通り、見えているようで何も見えていないのだ。プルーストにおける『囚われの女』の章は、男のストーカーを通じて、囚われていたのは男の方だと再定義し語られる。「僕は反対の意見だね」という発言は、彼女の為と言いつつも結局は自分にしか向いていない。シャンタル・アケルマンは『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』に引き続き、男社会による女性の軽視、社会的見下しを、映画的大迫力さでもって描いて魅せた。
3.ダゲール街の人々(Daguerréotypes)
監督:アニエス・ヴァルダアニエス・ヴァルダが自宅から徒歩50m圏内のダゲール街の生活を撮ったドキュメンタリー。パリというイメージから程遠い、薄暗くて決して豊かとは言えない生活が映し出されるのだが、彼女の手にかかればそこには美しい宇宙が現れる。捲し立てるように会場を盛り上げるマジシャンの奇術を媒体に、時空が歪められていくのだ。そして、カメラの外側でも続く生活の音を通じて、地続きの生活が強調され、彼女の質問がこの世界の片隅に住む者の悩みすら吸い上げて浄化していく。自由すぎるドキュメンタリーの豊かさにひたすら魅了された。
4.眠狂四郎 勝負
監督:三隅研次
出演:市川雷蔵、藤村志保、高田美和etc
次々と現れる眠狂四郎と戦いたい雑魚に対して、彼は抜群のファンサービスをする。斬るに取り憑かれた三隅研次の美学とユーモアが炸裂した一本。注目ポイントは、雑魚キャラが、まるでゲームの攻略を語り合うが如く、円月殺法突破法を議論し、実践に移していく様。通常、敵の会議シーンは観念的だったりあっさりと終わらせるものだが、本作ではじっくりと円月殺法における剣の位置がどの辺だと突破できるのかについて議論されるのだ。そして肝心な円月殺法は3度に渡り、カッコ良く魅せつけてくれる観客に対するサービスも忘れない。他にも、市川雷蔵の壁ドン、地面からの攻撃、湯船から刀出現といった異様な描写目白押しで1秒たりとも見逃すことはできなかった。
5.宇宙へのフロンティア(For All Mankind)
監督:アル・ライナート
アポロ月面着陸から50周年。アメリカでは数々の宇宙ドキュメンタリーが作られた。日本でも『アポロ11』がプラネタリウムで公開後、劇場でも上映される盛り上がりを魅せたが、1969年の興奮までアーカイブした作品は本作だけだと言えよう。アポロ計画の冷たい、緊張感。人類未踏、前代未聞に挑戦しようとする男たちの不安が画面全体から漂ってくる。そして人類が初めて月に降り立った時の興奮は、あの時代の空気感を100%体験することができる。このあまりに美しい興奮は『アポロ11』を凌駕するものでした。
余談ですが、アル・ライナートは後に映画『ファイナル・ファンタジー』の脚本を務めています。
6.私が女になった日(THE DAY I BECAME A WOMAN)
監督:マルズィエ・メシュキニ出演:ファテメ・チェラグ・アザル、シャブナム・トルーイ、アズィゼ・セッディギ
イランの巨匠モフセン・マフマルバフの妻マルズィエ・メシュキニ監督作にしてヴェネチア国際映画祭新人賞を受賞した逸品。これは彼女にとっての賭けであった。3話構成の本作は、イスラム社会によって抑圧される女性像を映画というメディアで最大限解放して魅せた作品だ。それも単に政治的メッセージを声高らかに叫ぶのではなく、アート映画としての風格をもって描くのです。
第一話では、スカーフをつけたくない少女と、彼女と遊びたがっている少年との駆け引きが描かれる。少女が外へ出ようとすると、親たちがスカーフをつけるように言う。なんでスカーフをつけなきゃいけないの?と抵抗する少女の目線の先に、早くこないかなと誘う少年の眼差しがある。スカーフをつけようにも布の大きさがイマイチで、ハサミでジョキジョキと切り出し中々彼女は外へ出られない。少年は、「先に行っているよ!」と去ってしまう。第一話は、国際的に評価される子どもを主人公としたイラン映画といった感じだ。その素朴な焦ったさをキメ細かいカメラワークで表現する。
そして、この作品が伝説となったのは第2話である。イスラム社会でタブーとされている《女性が自転車に乗ること》についてサウジアラビア映画『少女は自転車に乗って』と全く違ったアプローチで描いている。少女軍団が自転車レースをしている。カメラは主人公にフォーカスがあたる。彼女はとても疲れていて今にも止まりそうだ。しかし、少女軍団が彼女を追い抜くと、「頑張らねば! 」と全力でペダルを漕いで先頭に躍り出るのだ。しかし、また追い抜かれてしまう。走行していると、後方から馬に乗ったおっさん二人がやってきて、説教を始めるのだ。止まるんだ!無礼者め!女が何自転車に乗っているんだ!と。不思議なことに、おっさんが説教をする相手は彼女だけ。他の少女たちはアウト・オブ・眼中なのだ。そして、今にも止まってしまいそうな彼女の前に、音楽をヘッドホンで聴きながらガンガン飛ばしてくるカリスマ的チャリンコ少女が現れる。イスラム社会においてタブーを極めたアイコンが目の前を駆け抜けていくのだ。このこれはイラン女性怒りのデス・ロードだ。抑圧からの解放を自転車に象徴させ、それを止めようとする男との闘いを通じてイラン社会に強い批判を投げかけている。彼女は一人じゃない。仲間はたくさんいる。自由を得たイラン人女性もいる!そんな希望を、手汗にぎるアクションと美しい風景を捉え切る芸術性でもって描き切った本作は私的オールタイム短編ベストに入ることでしょう。
そして第3話で迎えるクライマックスは美しい。ショッピングセンターに買い物かごをもった少年が大量になだれこむ。そして少年たちがゲットしたであろう日用雑貨を浜辺に並べ、家が形成される。そこに鎮座するのはおばあちゃん。おばあちゃんはイラン社会で悲しい人生を送っている。その恋愛悲嘆が語られる。その周りで、少年たちがきゃっきゃきゃっきゃ騒ぎ、そして第1話で登場した少女、第2話の自転車少女軍団がアッセンブルしはじめる。そして、少年たちが「おばあちゃん行こう!」と奮い立たせ、ショッピングセンターでゲットしてきたものをかき集めたオンボロ筏で、遠く遠くに移る船目指して去っていくのだ。移民とはなんなのだろうか?それは単に「もっと豊かになりたい」という欲望から移動する民のことではない。強烈なその土地の文化に抑圧され、悲劇の淵に立たされたものが蛹に転生するようなものだ。蝶になれないかもしれない。しかし、芋虫のままでは踏み潰されてしまう。だから動くしかない!というメッセージを、これほどまでに力強いメッセージで叩きつけられたブンブンの瞳には涙で満たされた。
7.GIRL WALK//ALL DAY
監督:Jacob Krupnick出演:Anne Marsen、ダイ・オオミヤ、ジョン・ドイルetc
IndieWireの2010年代映画100本に選出されていた謎の映画。公式サイトで無料配信されていたので観たのだが、これは確かに2010年代の記念碑であった。
本作はバレエを踊っている少女が突然ロボットダンスをし、そのまま街に飛び出て踊り狂う様子ところにナオト・インティライミ似の男(岐阜県出身のダンサーDai Omiyaが演じている)と骸骨男がナンパしてくる物語だ。どっかで観たことありませんか?もろKANA-BOONの『フルドライブ』のMVではありませんか。
有閑さ、アイツは身体なまっている
ヘイロックオン、捉えているモーションさ
無駄無駄、誰彼構わず抜いていく
単純さ、一気に行け
最高でいけ、駆けるのさ
フルドライブ フルドライブ 走れ
フルドライブ フルドライブ 曲がれ
と言わんばかりに縦横無尽、文化を横断しながらコミカルに舞い散る男女に心が奪われます。2010年代、ダンサーはスマホで憧れのダンサーの動きを観て楽しみ自分の動きへと取り入れていく。TikTokでは、若者が即席で自分を表象する。
そんな時代の記念碑であり、映画史上唯一であろうスマホで観ること推奨のDOPE DOPE DOPEな作品でありました。恐らく2020年代にやっても全然響かなく、2010年代だからこそブンブンに響いた作品でもありました。
尚、本作は公式が無料で配信しています。気になる方は『GIRL WALK//ALL DAY』公式サイトを覗いてみてくれて!
8.シティ・オン・ファイア(City on Fire)
監督:アルヴィン・ラーコフ出演:バリー・ニューマン、スーザン・クラーク、ヘンリー・フォンダ、エヴァ・ガードナーetc
みなさん、爆発はお好きですか?
今となっては、マイケル・ベイが爆発を司る神として君臨しているがかつて爆発に取り憑かれた作品が存在した。
バリー・ニューマン、ヘンリー・フォンダ、エヴァ・ガードナーと豪華キャストで描かれる、このB級映画は、爆発することに命が捧げられた作品だ。仕事をクビになった男の腹いせが、ピタゴラスイッチのように街を覆い尽くす爆発業火へ発展していく。前半のリアリズムは中盤に差し掛かると、もはやダンテの『神曲』で描かれる地獄さながらのものとなる。ビルが爆発すると、自身が発生し、街があり得ないほどに真っ赤に染まる様。それは人間が心の底に持つ破壊願望を満たしてくれるであろう。
9.ノベンバー(November)
監督:ライナル・サルネ出演:レア・レスト、ヨールツン・リイク、アルヴォ・ググマーギetc
大車輪が牛を盗むも、木に激突して墜落。主人が命令を下すとバグが発生して爆発する。エストニアから現れたこの謎の映画は、人間味を帯びた大車輪という異様な怪物を媒体に、漆黒の国のアリスを画面に染み込ませる。トゥイードル・ディー&トゥイードル・ダムVSトゥイードル・ディー&トゥイードル・ダムな挿話、服を奪い合う女性(安っちい指輪ごときで、心が揺らぐ意思の低さ)、突然『ハードコア』さながらのPOV殺戮劇、そして何故か復活して居候すみっこぐらしな車輪の使い魔。幻影奇譚の極みが画面を縦横無尽に駆け巡る。そこには理解不可能しかない。
今年は、『ツイン・ピークス The Return』、『Coincoin et les Z’inhumains』とシュールの快感に満ちた作品と沢山出会えましたが、映画界のシュール枠は本作で決まりだ。
10.シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳(Simone Barbès ou la vertu)
監督:マリー=クロード・トレユー
出演:イングリッド・ブルゴワン、マルティーヌ・シモネ、ミシェル・ドラエetc
フレームの外に特化した傑作。
ポルノ映画館のモギリの女性が主役にもかかわらず、カメラはスクリーン前の受付に留まる。次々と現れる変な客、そしてスクリーン内から響き渡る喘ぎ声が物語を進めるキーとなり、映画を観るの外側を掘り下げていく。それは、娯楽の裏で退屈に暮らす人々の姿を告発している。ピンク映画館を舞台にすることで、より一層消費としての裏側と地続きにある退屈に身を投じる者の存在を強調させることに成功している。そして、本作がなければヤン・ゴンザレスの大傑作映画『Knife + Heart』は生まれなかったのではと考えると熱い作品だ。
コメントを残す