【書評】『マーティン・イーデン』ライター、ブロガー必読!物書きの嫉妬と野望、マウント、そして執着

マーティン・イーデン

著者:ジャック・ロンドン

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、行われたヴェネツィア国際映画祭で主演男優賞を『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』でお馴染みルカ・マリネッリが受賞した。そんな彼が出演している『マーティン・イーデン』は『華麗なるギャツビー』をギャツビー目線で描いたような作品だ。労働者階級の船乗りマーティンがひょこんなことからブルジョワ階級の娘と出会い恋をする。そしてその恋を原動力に作家への道へと進むという内容だ。このあらすじを読んだだけで、映画ブロガーとして惹き込まれるものがあります。ブンブンは、スクールカースト最下位から、何か芸をつけて自分の世界を掴みたいと思い中学時代から映画にのめり込み、今や毎日のようにブログを書き続けるようになった者。面白くないわけがない。

どうやら本作には原作があるようで、ハリソン・フォード主演『野性の呼び声』の原作者と同じジャック・ロンドンが書いた本の映画化にあたるとのこと。そして幸運なことに、日本では既に翻訳されていました。ということで実際に読んでみました。

『マーティン・イーデン』あらすじ

20世紀初めのアメリカ西海岸オークランド。労働者地区で生まれ育った若者マーティン・イーデンは、船乗りとなり荒っぽい生活を送っていたが、裕福な中産階級の女性ルースに出会い、その美しさと知性に惹かれるとともに文学への関心に目覚める。生活をあらため、図書館で多くの本を読んで教養を身につけ、文法を学んだマーティンは作家を志し、海上での体験談、小説や詩、評論を次々に書いて新聞や雑誌に送るが一向に売れず、彼が人生の真実をとらえたと思った作品はルースにも理解されない。生活は困窮し、絶望にかられ文学を諦めかけたとき、彼の運命は一転する。
密漁者、船乗り、放浪者などを経て作家に転身、『野性の呼び声』で世界的名声を獲得したジャック・ロンドンが、自らの体験をもとに書き上げた自伝的小説。理想と現実のはざまで闘い続ける創作者の孤独な栄光と悲劇を圧倒的な熱量で描いたこの作品は、多くの作家や芸術家に影響を与え、読者の心を揺さぶり続けてきた。20世紀初頭アメリカの階級社会の中で、独学で自己向上を目指す主人公の苦闘は、苛酷な格差社会の入口に立つ現代の若い読者にも切実に受け止められるだろう。

ライター、ブロガー必読!物書きの嫉妬と野望、マウント、そして執着

100年以上前に書かれた小説でありながら、全く色褪せない物書きの嫉妬と野望、マウント、そして執着の全てが書かれた本であった。オールタイムベスト本に『華麗なるギャツビー』を入れているだけに、本作は至高の読書体験をもたらした。マーティン・イーデンは決して交わることのないブルジョワ階級の世界に入る。そして世界は広いことに気づく。そしてブルジョワの世界で恋をした女性ルースに注目されるように図書館へ通い始める。しかし、労働者階級の粗暴な船乗りである彼はあまり文字が読めない。だから最初は、仕事に関連する本から勉強を始めるのだ。

しかし、ブルジョワからすると図書館で勉強し、教養を身に付けるのは《目的》である。ルースと対話する中で、正しい文法、正しい話し方を学ぶ彼だったが彼女から「あなたは教養が何かの手段みたいなことおっしゃるのね」と見透かされてしまう。そういった辛酸が段々と蓄積されていき、やがてライターとして、小説家として有名になろうとする。ブルジョワ階級と労働者階級両方の視点を持った物書きというところに差別化を図ろうとする。

そして、常に劣等感を抱きながら前に進む彼を編集部の連中は「君は物を書いている人を書きすぎている」と揶揄するのだ。

この「君は物を書いている人を書きすぎている」とマーティンが編集部の人から言われてしまう部分は、今のライター界にもよくあることだ。人生に行き詰まったり、スランプに陥ると、Twitterで物書きとしての自分を見つめなおしたり、他の成功しているライターに嫉妬を抱いたりする。それが思わず文章に滲み出たりする。それは物書きなら誰しもが抱くことだ。誰かに読んでもらおうとするつもりがベクトルが自分に向いており、痛々しさが出てしまうのです。こういったライターあるあるが所狭しと並んでおり、誰も歩んだことのない自分だけの道を追い求めてもがき苦しむ様は心にジーンとくるものがありました。今も昔、場所が変わろうとも物書きを取り巻く社会の普遍性を見事に抽出した大傑作でありました。

映画版はどうやら配給がついたようで恐らく来年公開されます。

ライター、ブロガーは騙されたと思って是非お手に取って読んでみてください!

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