鳳鳴 フォン・ミン 中国の記憶(2007)
原題:和鳳鳴
英題:Chronicle of a Chinese Woman
監督:ワン・ビン
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。遂に来週山形国際ドキュメンタリー映画祭が始まります!釜山国際映画祭に行けなくなったブンブンは、山形で10本映画を観る予定なのですが、最大のビッグイベントに王兵(ワン・ビン)渾身のドキュメンタリー『死霊魂』があります。中国共産党の反右派闘争で粛清されてしまい、ゴビ沙漠に収容された者の証言を描く8時間のドキュメンタリーで、今年最長クラスの『サタンタンゴ』よりも1時間長いモンスター映画だ。ワン・ビンは『鉄西区』の頃から追っている監督で、機会があれば極力観るようにしている。今年のベストテンに食い込みそうな作品であるが、予習として『無言歌』、『鳳鳴 フォン・ミン 中国の記憶』を観る必要があるとのこと。前者は既に観ていたので、後者をDVD取り寄せて観てみました。
『鳳鳴 フォン・ミン 中国の記憶』概要
1950年代以降の反右派闘争や文化大革命の粛正運動で数々の迫害を受けた女性・鳳鳴(ファンミン)が、74年に名誉回復されるまでの約30年にわたる苦境を自ら語ったドキュメンタリー。約3時間にわたり、彼女の語りだけがカメラに収められている。監督は「鉄西区」「無言歌」のワン・ビン。2007年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。同年の山形国際ドキュメンタリー映画祭では大賞を受賞している。13年、ワン・ビン監督作「三姉妹 雲南の子」(12)の日本公開にあわせて劇場初公開。
※映画.comより引用
喋るおばちゃん撮っているだけじゃん。いや、カットの超絶技巧に気づいて欲しいのです!
3時間は当たり前、9時間、中には14時間に及ぶ作品を放つ怪物ドキュメンタリー作家の王兵(ワン・ビン)が、反右派闘争の波に飲まれ、地を這うように生きた鳳鳴を捉えたこの3時間のドキュメンタリーは、タル・ベーラもびっくり、たった18カット、それもほとんどがソファーに腰掛けた鳳鳴の語りで占められるという異様な作品だ。
これはクロード・ランズマンが、戦時中の動画を使わず対象者の語りだけで物語った『SHOAH』、『ソビブル、1943年10月14日午後4時』に近いスタイルだ。この手の作品は常に、映画的ではない、なんなら新書でやってくれよといった批判がつきものだが、ブンブンはこういった作風を評価します。というのも、被写体から壮絶な体験を聞き出すのがとてつもなく大変なのを知っているからだ。昔、戦争体験者や東日本大震災の被害者の話を学校のアクティヴィティの一環で伺ったことがあるのですが、心に大きな傷を追った者から聴く話は支離滅裂で難解だったりする。ただ、壮絶な人生を歩んだ者にカメラを向ければ、作品ができるという訳ではないのだ。しっかりと、被写体が自分を語れるような環境や誘導無くして作り出すことができない。
だからこそ、ワン・ビンの本作におけるたった18カットの編集はランズマン程ではないが超絶技巧であり評価に値する。
さて、鳳鳴から語られる話は中国史に疎くてもスリリングで、脳裏に情景が浮かぶ者ばかりだ。社会の役に立ちたいと、英語を頑張り大学に進学した彼女は右派闘争に巻き込まれ、愛する夫と離れ離れに収容されてしまった。
配給なんか乏しく、常に飢えと闘っていた彼女は言う。
「生きるための悪を!」
彼女は生きるために、綿を盗む。同僚にバレてしまい、冷や汗をかくが、運よく見逃してもらう。しかし、綿の種は全く腹が膨れず、今度は小麦粉を入手しようとする。こういった修羅場が生々しく語られ、観る者は脳裏にそのスリリングな描写を映画的に紡ぎ出す。3時間あれど全く退屈しない。
そしてこの作品は、彼女がこの人生を執筆するところを長々と映して終わる。そうです、今我々が聴いた話は、出来立てホヤホヤのエピソード。本で、しっかり理論立てて、多少誇張を入れて作り込まれる前の状態なのだ。
まだ、形になっていない本に触れる感動を与えて終わるところに王兵の鋭さを感じずにはいられない。さて、ここで語られる話は山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映される8時間映画『死霊魂』へと引き継がれるが果たして… とにかく楽しみだ。
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