【解説】『The Green Fog』ゴダールを指パッチンで凡人に変える男ガイ・マディン緑の魔法

ザ・グリーン・フォグ(2017)
The Green Fog

監督:Evan Johnson,Galen Johnson,ガイ・マディン

評価:99点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

皆さんは、ガイ・マディンという監督をご存知だろうか。日本では2004年の第5回東京フィルメックス(この年のフィルメックス特集が凄い、ガイ・マディン、内田吐夢、ボーディ・ガーボル。最優秀作品賞がアピチャートポン・ウィーラセータクン『トロピカル・マラディ』にアニエス・ヴァルダ賞が)バフマン・ゴバデの『亀も空を飛ぶ』ですよ)で紹介された程度、『死ぬまでに観たい映画1001本』における『アークエンジェル』の項目で遭遇する程度の認知度なのですが、個人的にもっと日本で紹介されてほしい監督だと思っています。彼は1956年生まれのカナダ・ウィニペグ出身監督です。若い頃は映画の勉強がしたいと願うものの、映画学校がなかったため塗装業や銀行に務めながら、デヴィッド・リンチ、ヴェルナー・ヘルツォーク、クエイ兄弟等に想いを寄せ映画の道を模索していました。そんな映画への執着が、初長編の『ギムリ・ホスピタル』におけるドイツ表現主義への愛、『アークエンジェル』におけるサイレント映画愛へと繋がり、その異常すぎる世界観がカルト的人気を獲得していきました。

残念ながら、ブンブンはこれらの作品を未見なので文献から様子を伺うことしかできませんが、このカナダの鬼才は2015年に世にも恐ろしい地獄絵図を創り上げた。ブンブンのオールタイムベスト100常連作品である『The Forbidden Room』です。

『ブレアウィッチ・プロジェクト』以降低予算映画、ホラー映画界隈で盛んに作られてきた「惨劇を収めた映像拾ったから観ようぜ」系映画、正式名称ファウンドフッテージの中で最も地獄の底から発掘された代物をこの作品は提示した。どこでもドアのように、様々な次元で起こる冒険を描いた作品なのだが、朽ち果てたようなセピアとフィルムの映像。クラシカルでありながらも、過去にも今にも未来にも内容な吐き気を催す映像の洪水に観るものは「悪魔の発明」を感じてしまう作品であった。

ガイ・マディンはリンチとゴダールを足したような映画を作る監督だ。リンチのようにシュールであるものの、過去の映画遺産を巧みに脱構築する。物語ることを諦めてしまったゴダールとは違い、膨大な映画の知識を機能的に構築して独自の物語を紡ぎ出すのだ。それは例えば『KEYHOLE』で『オデュッセイア』を1日に凝縮した『ユリシーズ』に対抗し、さらにミクロに凝縮させ一軒家の中で叙事詩を語らろうとしたりするのだ。

そんな彼の新作『The Green Fog』はサンフランシスコのドキュメンタリーを作る過程の中で、ヒッチコックの『めまい』、他の映画の映像並べるだけで再現できる説を閃き、実行に移してしまった。富澤たけしも真顔で「ちょっと何言っているのかわからない」系映画でありました。なんとvimeoで配信されていたので借りて観ました。

『The Green Fog』概要


Director Guy Maddin’s interpretation of the Alfred Hitchcock classic Vertigo, pieced together using footage from old films and television shows shot in and around the San Francisco area.
訳:サンフランシスコ周辺およびその周辺で撮影された古い映画やテレビ番組の映像を使用してつなぎ合わせた、アルフレッドヒッチコックの古典的なめまいのガイマディン監督の解釈。
imdbより引用

これぞホンモノのサンプリングだ!

ゴダールは膨大な映画や文学、絵画に音楽からの引用でもって映画というものの概念を破壊してきた。新作『イメージの本』では、まさに100年後の世界に向けてゴダールが放ったファウンドフッテージであり、この世で最も難解な絵本であった。ゴダールは、昔から物語ることができない自分を憂鬱に思い、スピルバーグやイーストウッドに嫉妬してきた人物だ。それが悟りの境地へといき、映画は所詮過去からの引用でしか物語ることができないのであればその極地を目指すスタイルで、前衛的なコラージュを発表していき、遂にはゴダールというブランドがなければパルムドールを超えるパルムドールなんか獲れるはずのない、乱暴なコラージュを世の中のシネフィルに投げつけた。俺の知識と難解さを有り難がるが良いという相変わらずの高慢さとカリスマ性でもって。

それに対してガイ・マディンは映画と愚直に向かい合い、物語ることを大切にしている。本作は膨大なサンフランシスコを舞台にした映像の中から、ヒッチコックの『めまい』と重なる部分を抽出する。そして、時に緑の霧を混ぜ込むことで、観客の脳髄に偽の、もとい別次元の『めまい』が構築されていくのだ。そして、アクションのある映画はセリフがなくても物語の信仰が分かるであろうと、サイレント映画好きな彼の計らいによって、別の映画の本来あるはずであろうセリフがごっそりと飛ぶ。

時折、セリフありで物語られるのだが、それは

“All the cities of the world are eroding, decaying, and dying,”
(世界中のすべての都市が侵食され、腐敗し、そして死にかけている)

といったように不穏だ。『めまい』においてジェームズ・ステュアート演じる刑事が、高所恐怖症とキム・ノヴァク演じる魔性の女の幻影によって世界が歪められていくことを暗示しているようだ。

そして『めまい』にはある種のバッドエンドが待っている。それは直接悲劇の結末を魅せないのだが、こちらでは『めまい』の反射だと、無数における悲劇の形を提示し、ヒッチコックとは違ったクエスチョンマーク、深読みが可能なエンディングを用意してThe Endとするのだ。

これはある意味、映画と観客との関係性を描いた作品と捉えることができる。一つの映画に対して観客は別の映画の残像や記憶と結びつけて感想が生み出される。そしていつしか映画は製作者の手を離れ、観客ひとりひとりの物語として姿形が変わっていく。ガイ・マディンは、突然彼の心に落ちて来たサンフランシスコのドキュメンタリーと『めまい』に関する想いを核融合反応させて映画と観客の力学を示して魅せたのだ。正直、『イメージの本』を遥かに超える未来の映画を魅せてくれた。これは日本でもきちんと紹介されて欲しい作品でありました。

劇中引用作品リスト(Guy Maddin’s Quotation in “The Green Fog”)

本作のエンドロールはスタッフロール代わりに、引用作品のオープニングが並べられています。そこで、ここにそのリストを記載していきます。本作を観た方の助けになればと思います。

1.署長マクミラン(1971~1977※テレビシリーズ)
2.Dark Passage(1947,Delmer Daves)
3.スタートレックIV 故郷への長い道(1986,レナード・ニモイ)
4.水爆と深海の怪物(1955,ロバート・ゴードン)
5.タワーリング・インフェルノ(1974,ジョン・ギラーミン)
6.バーバリー・コースト(1935,ハワード・ホークス)
7.カンバセーション…盗聴…(1974,フランシス・フォード・コッポラ)
8.フラワー・ドラム・ソング(1961,ヘンリー・コスター)
9.ジェイド(1995,ウィリアム・フリードキン)
10.The Love Bug(1968,Robert Stevenson)
11.サンフランシスコ捜査線(1977)
12.めまい(1958,アルフレッド・ヒッチコック)
13.The Sniper(1952,エドワード・ドミトリク)
14.レイジング・ブレット 復讐の銃弾(1996,ジョン・シュレシンジャー)
15.The Man Who Cheated Himself(1950,フェリックス・E・フェイスト)
16.They Call Me Mister Tibbs!(1970,ゴードン・ダグラス)
17.ダーティ・ハリー(1971,ドン・シーゲル)
18.Confessions of an Opium Eater(1962,アルバート・ズッグスミス)
19.メル・ブルックス/新サイコ(1977,メル・ブルックス)
20.007 美しき獲物たち(1985,ジョン・グレン)
21.十誡(1923,セシル・B・デミル)
22.クラッカーズ/警報システムを突破せよ!(1984,ルイ・マル)
23.Impact(1949,Arthur Lubin)
24.Herbie Rides Again(1974,ロバート・スティーヴンソン)
25.モンスター・イン・ザ・クローゼット/暗闇の悪魔(1986,ボブ・ダーリン)
26.ゲーム(1997,デヴィッド・フィンチャー)
27.黒い肖像(1960,マイケル・ゴードン)
28.Arthur Hailey’s Hotel(1983~1988※テレビシリーズ)
29.上海から来た女(1947,オーソン・ウェルズ)
30.殺人捜査線(1958,ドン・シーゲル)
31.ブリット(1968,ピーター・イェーツ)
32.Hard to Hold(1984,ラリー・ピアース)
33.サン・ソレイユ(1983,クリス・マルケル)
34.the end of the world in our usual bed in a night full of rain(1978,Lina Wertmüller)
35.インナースペース(1987,ジョー・ダンテ)
36.Una sull’altr(1969,ルチオ・フルチ)
37.テレグラフ・ヒルの家(1951,ロバート・ワイズ)
38.Chan Is Missing(1982,ウェイン・ワン)
39.ミセス・ダウト(1993,クリス・コロンバス)
40.天使にラブ・ソングを2(1993,ビル・デューク)
41.スニーカーズ(1992,フィル・アルデン・ロビンソン)
42.ハネムーンは命がけ(1993,トーマス・シュラム)
43.パシフィック・ハイツ(1990,ジョン・シュレシンジャー)
44.氷の微笑(1992,ポール・バーホーベン)
45.Patty Hearst(1988,ポール・シュレイダー)
46.ダーティハリー5(1988,バディー・バン・ホーン)
47.絶体×絶命(1998,バーベット・シュローダー)
48.プレシディオの男たち(1988,ピーター・ハイアムズ)
49.ウーマン・イン・レッド(1984,ジーン・ワイルダー)
50.夜の豹(1957,ジョージ・シドニー)
51.The Organization(1971,ドン・メドフォード)
52.キラー・エリート(1975,サム・ペキンパー)
53.Daddy’s Gone A-Hunting(1969,マーク・ロブソン)
54.天使にラブ・ソングを…(1992,エミール・アルドリーノ)
55.ゲッティング・イーブン(1994,ハワード・ドゥイッチ)
56.フィアレス/恐怖の向こう側(1993,ピーター・ウィアー)
57.Mr. Ricco(1975,ポール・ボーガート)
58.タイム・アフター・タイム(1979,ニコラス・メイヤー)
59.突然の恐怖(1952,デヴィッド・ミラー)
60.Slaughter in San Francisco (1974,ロー・ウェイ)
61.スパイ大作戦(1966~1973※テレビシリーズ)
62.Old San Francisco(1927,ダリル・F・ザナック)
63.生まれながらの悪女(1950,ニコラス・レイ)
64.愛よいずこへ(1964,エドワード・ドミトリク)
65.白と黒のナイフ(1985,リチャード・マーカンド)
66.The Zodiac Killer(1971,Tom Hanson)
67.ザ・ファン(1996,トニー・スコット)
68.マシンガン・パニック(1973,スチュアート・ローゼンバーグ)
69.Petulia(1968,リチャード・レスター)
70.Julie(1975,K. S. Sethumadhavan)
71.追跡(1962,ブレイク・エドワーズ)
72.男が女を愛する時(1994,ルイス・マンドーキ)
73.Woman on the Run(1950,ノーマン・フォスター)
74.The Falcon in San Francisco(1945,ジョセフ・H・ルイス)
75.SF/ボディ・スナッチャー(1978,フィリップ・カウフマン)
76.鳥(1963,アルフレッド・ヒッチコック)
77.愛という名の疑惑(1992,フィル・ジョアノー)
78.血のバケツ(1959,ロジャー・コーマン)
79.Samurai(1979,Lee H. Katzin)
80.Incident in San Francisco(1971, Don Medford)
81.ターミネーター:新起動/ジェニシス(2015,アラン・テイラー)
82.GODZILLA ゴジラ(2014,ギャレス・エドワーズ)
83.Frisco Jenny(1932,ウィリアム・A・ウェルマン)
84.ふりむけば愛(1978,大林宣彦)
85.Murder, She Wrote (1984~1996※テレビシリーズ)
86.Dogfight(1991,Nancy Savoca)
87.The Golden Gate Murders(1979,Walter Grauman)
88.Nora Prentiss(1947,ヴィンセント・シャーマン)
89.カリフォルニア・ダウン(2015,ブラッド・ペイトン)
90.The Sisters(1938,Anatole Litvak)
91.炎の街(1945,ジョゼフ・カネ)
92.Fog Over Frisco(1934,ウィリアム・ディターレ)
93.ザ・インターネット(1995,アーウィン・ウィンクラー)
94.Thundercrack!(1975,カート・マクダウェル)
95.ダーティハリー2(1973,テッド・ポスト)
96.生まれながらの殺し屋(1947,ロバート・ワイズ)
97.グリード(1924,エリッヒ・フォン・シュトロハイム)
98.San Furanshisuko(1936,W.S. Van Dyke)
99.ザ・ロック(1996,マイケル・ベイ)
100.透明人間(1992,ジョン・カーペンター)

created by Rinker
Nbcユニバーサル エンターテイメント
ブロトピ:映画ブログ更新
ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です