『ジョン・フロム/John From』作られた偶像が幾重にも層を紡ぎ出し玉虫色の閃光を放つ

ジョン・フロム(2015)
JOHN FROM

監督:João Nicolau
出演:Julia Palha, Clara Riedenstein, Filipe Vargas etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、アップリンク渋谷の企画上映『肌蹴る光線』でポルトガルのユニークな映画を観てきました。『肌蹴る光線』とは、昨年からアップリンク渋谷で定期開催されている、新しい映画上映会である。過去には、ビー・ガンの『凱里ブルース』や『わたしたちの家』の清原惟監督過去作などが上映されている。毎回、鋭い映画のチョイスをするのだが、今回は日本最強の映画超人・済藤鉄腸氏が紹介していたポルトガルの異色作『ジョン・フロム』でした。予告編を観て興味を持ったので行ってみました。

※済藤鉄腸氏の記事:João Nicolau&”John From”/リスボン、気だるさが夏に魔法をかけていく

『ジョン・フロム』あらすじ


本作はリスボンの団地に住む2人の少女の姿を16mmフィルムで捉えた青春映画。15歳のリタが親友サラとともに、新しく越してきたシングルファーザーの写真家フィリペとの関係を通して、退屈な日々から脱出を試みるさまが描かれる。
映画 ナタリーより引用

作られた偶像が幾重にも層を紡ぎ出し玉虫色の閃光を放つ

大学時代、人類学を学んでいたJoão Nicolauはバヌアツのユニークな偶像ジョン・フロムと思春期の妄想を重ね合わせた独特な世界観を創りあげた。ジョン・フロムとは、第二次世界大戦時代に空中から物資が落とされたことから糧をもたらすものとして米軍であるジョン・フロムを進行するようになったカーゴカルトの対象です。その起源は一説によるとさらに古く、メラネシアの人々が秘境探索中の先進列強国の者と出会い、施しを与える存在として神のように崇めたことに由来するそうだが、詳しいことは割愛する。とにかく、本作では、キリスト教や仏教とは違い、先進国との対峙によって作られた偶像を物語の軸として使用している。そんな物語は歪なことに『中学生円山』的な話と核融合することで唯一無二の面白さと、思わぬ現代社会批評が織り混ざった魅力に満たされていきました。

『中学生円山』では

《「妄想する」良からぬことを想像して考えに囚われる神が人類にのみ与えたオマケみたいな力。》

と定義している。

主人公のリタは同じ団地に住む中年おっさんカメラマンのフェリペに恋している。今は夏休みなのだが、特にヴァカンスらしいイベントは起きず、部屋で友人サラとダラダラ喋って、ネットサーフィンして、恋バナして果てしなく続く退屈な時を刻もうとしている。そんな彼女は、フェリペの写真展に行く。メラネシアの文化を伝える写真展は、まるで中学生の展示のようにチープでしょぼいのだが、タピオカ大佐やメラネシアの独特な仮面文化に感化されて、彼女の想像力は刺激に刺激されていくのだ。そして「妄想する」力に覚醒した彼女の周りで不思議なことが起こる。それは『天気の子』のように超絶祈ったら大雨だった都市に光差すなんてファンタジーなもんではない。『百年の孤独』のようにチョコレートを飲んだら自然と空を飛ぶみたいな自然体で描かれる。非常に珍しいマジックリアリズムな怪奇現象が彼女の周りで渦巻き、観るものの心を鷲掴みにしていくのだ。

団地の役員会議にこっそり参加してみると、謎の霧が会議室を包み中止となってしまう。家に帰ると、手紙が宙をふんわり舞い、何故か空中から落下傘で謎の男が出現する。いつの間にか団地はメラネシアの景色に移ろいゆくのだ。ヴィジュアル最優先のタッチ且つ、彼女の周りで発生する超常現象に説明がないので、コントが並んでいるだけのように見え難解に感じるかもしれないが、これは実質『中学生円山』だったのです。

思春期、家に縛られ、折角自由になるチャンスである夏休みも不自由によって退屈さが流れている。そんな退屈さを打破するのは妄想だった。妄想は大海原のように自由を与える。夢とは違う。夢は『不思議の国のアリス』のように、一見出口が見えない広大な自由が広がっているように見えるが、身体の大きさは調節できず、コントロールできないルールの引力にかき乱され少女は不自由を味わう。全てが受動的な世界だ。しかし、ここに広がる不思議の国は、彼女の欲望によって生み出される能動的な世界だったのだ。

ただ、この『不思議の国のアリス』的物語は異国文化の安易な消費という批判や、少女が作られた偶像を元に世界観を創りだす文化の再構築/脱構築の側面に対しての言及等、視点が広域に及んでおり2010年代SNSの発達によって世界が非常に狭くなり、情報過多となってしまった今を象徴する物語へと昇華していた。まさしく、2010年代もっとも今時代の『不思議の国のアリス』と名乗る資格がある作品でした。バートンの作品なんかより語る資格があります。

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