永遠に僕のもの(2018)
EL ANGEL
監督:ルイス・オルテガ
出演:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、メルセデス・モラーンetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。第71回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され話題となった『永遠に僕のもの』が8/16(金)より日本にて公開されます。本作は、アルゼンチンの新鋭監督ルイス・オルテガがペドロ・アルモドバル製作で描いた実話ものです。ルイス・オルテガ監督は2005年の『Monobloc』でアルゼンチンのローカル映画祭Buenos Aires International Festival of Independent Cinemaでスペシャルメンションを、さらに2012年『Dromómanos』で監督賞を受賞している今注目の監督であります。
『永遠に僕のもの』あらすじ
1971年のアルゼンチンで12人以上を殺害した連続殺人事件の犯人である少年をモデルに、スペインの名匠ペドロ・アルモドバルが製作を務めて描いたクライムドラマ。1971年のブエノスアイレス。思春期を迎えたカルリートスは、子どもの頃から他人が持っている物を無性に欲しがる性格だった自分の天職が、窃盗であることに気づいてしまう。新しく入った学校で出会ったラモンという青年にたちまち魅了されたカルリートスは、ラモンの気をひくためにこれ見よがしな対応を取り、2人はいとも簡単に殺人を犯してしまう。次第にカルリートスとラモンの蛮行はエスカレートし、事態は連続殺人へと発展していく。本作が映画デビューとなる俳優ロレンソ・フェロが主人公カルリートスを演じる。
※映画.comより引用
《お前のものは俺のもの》の先にある喪失感
本作は、まるでグザヴィエ・ドランの作品を観ているかのような、耽美的でスタイリッシュな映像が2時間楽しめる逸品です。銃に取り憑かれた青年が、いとも簡単に人を殺し、ものを奪っていく様子が映し出されていく。本作のモデルとなったCarlos Eduardo Robledo Puchはアルゼンチンで《死の天使》《黒い天使》と呼ばれ、彼は11人の殺人、1人の殺人未遂、17人の強盗、1人の強姦、1人の強姦、1人の性的虐待、2人の誘拐および2人の窃盗で1973年に刑務所へ入れられました。実際に、彼の写真を観ていると、非常に可愛らしく、『ハウス・ジャック・ビルト』のジャックなんかのような狂気の片鱗は見えてきません。そして本作は、そんな彼をロレンソ・フェロが好演しています。まるでファッションモデルのような、いやアイドルのような美貌を持つ彼が、銃に取り憑かれ、人のものに取り憑かれ、いく先々でいとも簡単に人を殺していくのです。映画とは現実世界ではタブーだとされることをやってのけ、そこに面白さを見出す一面があるのですが、まさしく『永遠に僕のもの』は徹底的にそれをやってのける。銃を二丁構え、車を狙撃する、親に銃を突きつける様。危険な香りがチラつく魅惑なファッションとして全てのシーン、全てのショットが決まっているのです。
そして、本作が非常に面白いのは、《お前のものは俺のもの》の先にある喪失感というのを緻密に描いていることにあります。主人公カルリートスは幼少期から、自分に秘めた何かにモヤモヤを感じていました。その正体がやがて盗みだと知ります。自分が盗みに飢えていることを知り、他者からモノを奪います。まるでドラキュラが生き血を吸うように。しかし、人の生き血を吸えば吸うほど、他者の命は軽くなり、彼の銃のトリガーも軽くなる。息を吸うように銃をぶっ放す(しっかり、一般人はそう簡単にトリガーを引けないという説明描写があるところに好感を抱く)のだが、彼は常に喪失感を感じてしまいます。バスルームで虚空を眺め、「なんか満たされないな」と思うのです。
我々は映画の全貌を観ていくうちに気づくのです。「彼は、モノを奪うまでのプロセスが大事で、結果には面白さを感じていないのだ」と。こうして、『俺たちに明日はない』のボニー&クライドのごとく欲求を満たす地獄旅を続けていく。そこに漂う、彼の苦悩。我々はなかなかシリアルキラーの感情に近づくことはできないのだが、カルリートスの引力によってこの苦悩のカケラを共有していくこととなります。これは悪魔の果実とも言える秀作でありました。
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