【カンヌ国際映画祭特集】『ヴィクトリア』これじゃあ、男女入れ替えただけジャスティーヌ・トリエよ…

ヴィクトリア(2016)
VICTRIA

監督:ジャスティーヌ・トリエ
出演:ヴィルジニー・エフィラ、ヴァンサン・ラコスト、メルヴィル・プポーetc

評価:20点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今日は、第72回カンヌ国際映画祭コンペティションに『Sibyl』を出品しているジャスティーン・トリエ監督の旧作『ヴィクトリア』を紹介します。ジャスティーヌ・トリエ監督は、2013年の『ソルフェリーノの戦い』で注目され、カイエ・デュ・シネマ年間ベストテンにも選出された2010年代注目の監督です。新作では、小説家の夢を一度は諦め、心理カウンセラーになったシビルが再び小説家になろうとするのだが、ネタがなく困ってしまう。そこに元患者の女優マルゴが現れ運命が変わっていくという物語。どうやら心理劇が得意なジャスティーヌ・トリエ監督。そんな彼女の『ヴィクトリア』がAmazon Prime Videoで配信されていたので観てみました。

『ヴィクトリア』あらすじ


ヴィクトリアは刑事事件専門の弁護士。ある日、出席した結婚式で、昔の友人ヴァンサンと、以前担当した薬物事件の依頼人サムに再会する。その翌日、ヴァンサンが恋人の殺害未遂容疑で逮捕される。無実を証明できるのは被害者の飼い犬のみ。仕方なく弁護を引き受けたヴィクトリアだったが、元夫の迷惑行為に対応したり、なぜかサムを住込みのベビーシッターとして雇うことになったり、数々の波乱が巻き起こる…。
※CinemaCafe.netより引用

『ヴィクトリア』これじゃあ、男女入れ替えただけジャスティーヌ・トリエよ…

本作はカンヌ国際映画祭批評家週間にて上映され、Allocineによると38メディア中34メディアが星4/5以上をつけた作品だ(2019/05/09時点)。Le Mondeがジャスティーヌ・トリエ長編2作目としての力強さを賞賛しているのも納得なオープニングから始まる。というのも、冒頭は『ソルフェリーノの戦い』と全く同じ、二人の赤ちゃんの面倒をみながら主人公がドタバタするシークエンスが展開されるのです。『ソルフェリーノの戦い』は実際の大統領選挙中、大統領が誰になるのか分からないまま、貧弱な男と強気な女の掛け合いが複雑に絡み合い、思想の矛盾を皮肉った大傑作であった。そしてコントロール不可能な赤ちゃんの暴走を、華麗にコントロールしていくトリエ監督の演出に痺れた。前作は極めてドキュメンタリー的、予測不能な世界をコントロールしていく手法が取られていたのに対して、『ヴィクトリア』では劇映画的コントロールされた世界で人間の心理を描いていくという監督の意志を感じさせる。

そして硬派な弁護士ヴィクトリアのキャラクターが描かれていく。彼女は弁護士としてドライだ。結婚式で知り合いに仕事を下さいと懇願されるが、「私だって自分の生活資金を稼ぐ為に忙しいんだから」とあまり取り合わない。強い女性として男には厳しいようだ。そんな彼女が、殺人容疑で逮捕されてしまった友人の弁護を任される。彼女は、渋々引き受けて頑張るのだが、色事に巻き込まれたり、スキャンダルに悩まされたり、男のバカさ加減に呆れたりするという内容。

恐らく、ジャスティーヌ・トリエ監督は『ソルフェリーノの戦い』の頃から、男性の弱さというところに興味があるのだろう。男性社会のように見えるが、実際は女性の方が断然しっかりしているということを描きたいのだろう。しかしながら、本作の場合、男女のパワーバランスを入れ替えただけで、質の悪いスクリューボールコメディーに過ぎないイメージが強かった。やはり、この手の社会に存在する無意識なパワーバランスを皮肉る作品は最新の注意が必要だ。『ありがとう、トニ・エルドマン』では、男性社会を生き抜く為に性格を捻じ曲げて、冷たく歪んだ女性像に、EUの搾取する/される側の視点を投影させる、二重の象徴が効果的に使われていたから観客にハッとさせる視点を提示できたと思う。『ソルフェリーノの戦い』では、政治的主張の本音と建前の矛盾を通して、結局のところ付和雷同的に大きく示された幾つかのベクトルを渡り歩いているという視点を盛り上げる為に、逆転する男女のパワーバランスが描かれてきた。『ヴィクトリア』の場合、男女のパワーバランス一点に絞って、男ってショボいよねと声高らかに語っているのが鼻につく。確かに現代は、男女平等の時代だし、不当な男女格差は是正されるべきだ。社会に根強く残る、不平等を指摘するのは映画の保つ役割として大事だ。しかしながら、単にパワーバランスを入れ替え、嘲笑するのはなんか違うと感じた。それは結局のところ、パワーバランスが入れ替わった不平等の実現を理想としているような感じがするのだ。ジャスティーヌ・トリエ監督は注目していたが、これを観るとちょっと今後の活動に不安がよぎってしまうな…

とはいえ、『Sibyl』はあらすじ読む限り面白そうなので、今後もチェックしていきたいと感じました。

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