名探偵コナン 紺青の拳(2019)
監督:永岡智佳
出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平、林原めぐみetc
評価:20点
おはようございます、チェ・ブンブンです。世界では、やれマーベルが、ディズニーが、DCがと大盛り上がりとなり、興行ランキングでは愛国心の強いフランスですら平気で1位を独占してくる。しかし、日本だけは通用しない。というのもこの時期、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、名探偵コナンという3つの牙城が立ち憚るのだ。昨年、『名探偵コナン ゼロの執行人』が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を完膚無きまでに打ちのめしました。今回も、来週公開の『シャザム!』なんかは完全に空気で、再来週公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』はあっさりと駆逐されてしまうであろう。ただでさえ、劇中で登場するキャラクターは毛利蘭といったサブキャラクター含めて即アベンジャーズに加入できるほどの戦闘力を持った、サノスもビビるチームである。そんな今回、コナンと怪盗キッドと京極真という超人が日本を離れシンガポールで暴れるというので観てきました。嫌な予感しかしませんねw
※ネタバレ注意
『名探偵コナン 紺青の拳』あらすじ
大ヒットアニメシリーズ「名探偵コナン」の劇場版23作目。劇場版シリーズでは初めての海外となるシンガポールを舞台に、伝説の宝石をめぐる謎と事件が巻き起こる。コナン宿命のライバルでもある「月下の奇術師」こと怪盗キッドと、これが劇場版初登場となる空手家・京極真が物語のキーパーソンとなる。19世紀末に海賊船とともにシンガポールの海底に沈んだとされるブルーサファイア「紺青の拳」を、現地の富豪が回収しようとした矢先、マリーナベイ・サンズで殺人事件が発生。その現場には、怪盗キッドの血塗られた予告状が残されていた。同じころ、シンガポールで開催される空手トーナメントを観戦するため、毛利蘭と鈴木園子が現地を訪れていた。パスポートをもっていないコナンは日本で留守番のはずだったが、彼を利用しようとするキッドの手により強制的にシンガポールに連れてこられてしまう。キッドは、ある邸宅の地下倉庫にブルーサファイアが眠っているという情報をつかむが……。
※映画.comより引用
ただひたすらに傲慢/高慢
『名探偵コナン』のようなプログラムピクチャーはテレビ屋映画同様に楽しみ方がある。あくまでプログラムピクチャーは、1年に1回くらいしか映画を観ない人のためにわかりやすく、面白く作るものです。なので70点を狙いにいくのが仕事なのです。それ故に、ゴダールとかトリュフォーとかを有り難く観るシネフィルが、粗を探して叩くのは間違っているということにここ数年気づき猛省しています。30点マイナスした状態で、いかに驚きとか面白さを演出できるのか、そこを楽しむのが肝だといえます。
そう考えたときに、『名探偵コナン』が築き上げた牙城は賞賛に値する。確かに、映画のコナンは謎解きなんてものはオマケでアクションに特化しているのは否めないし、本作に始まった話ではない。日本で、アクションを撮らせたら予算の関係でハリウッドと比べるとチープになってしまう。『ワイルド・スピード』のような筋肉アクションなんて撮れる訳がないのだ。しかし、日本には《アニメ》がある。アニメの良さを最大限に活かしたのがこのシリーズなのだ。ハリウッド映画にしかできないような、大爆発パワープレイをアニメに落とし込み、5分に一度の大爆発、激しいアクションを入れることでバカバカしくも興奮を観客に与えることができるのです。
これは印象主義なタッチと児童小説の深化に特化したジブリ映画とは明確に差別化を図り、毎回観客を楽しませてきたからこそ、今やコナン世代が親になり子どもを連れて観る。老若男女楽しめる娯楽となったのです。
この軌跡は評価すべきだし。資本主義の塊である米国に打ち勝つローカルコンテンツを有していることは日本の誇りと言えます。
しかしながら、今回ばかりはこういった祭映画に弱いブンブンも年間ワーストクラスに酷い作品でした。最大の功罪は、今まで積み上げてきた技術力やマーケティング戦略の強さに溺れ、傲慢且つ高慢になってしまったことにあります。
いきなり、冒頭で恒例の阿笠博士のクイズが展開されるのだが、もう「時間がないから冒頭になっていいでしょ!」と言わんばかりのヒールな演出に嫌な気持ちとなる。そして、観客に考えさせる時間を与える間もなく、「さあ、みんないいでしょ?答え出すよ!みんな早くアクション観たいんだろ?」と言いたげに答えを提示する。元来、この第四の壁を破りクイズを提示するのは、キッズが飽きないようにする為の演出のはず。いくら名探偵コナンが大人も楽しめるコンテンツになったからと言って、キッズへの配慮を軽視してしまうのはオトナ帝国のケンそのものです。
また、前作の安室透のイチャイチャ、フェロモン描写で全国の女子を魅了させたことに味をしめたのか、本作では400戦無敗の最強空手家・京極真と財閥令嬢・鈴木園子、工藤新一に変装した怪盗キッドとのラブラブに嫉妬するコナン(=本物の工藤新一)の情事を執拗に映すのです。みんなこれが観たいんだろ、ほらよ!という高慢さが見えすえています。面白いものを作ろうというエンタメ精神が、儲け優先な資本主義の塊の邪悪な部分が見えてしまうので段々と落ち込んでくるのです。
せめてバレるかバレないかサスペンスをやってほしい
本作はいつも以上にミステリーをする気がない作品となっています。10年前くらいにライムスター宇多丸が斬り捨てていったただ海外に行きたかっただけ系邦画さながら、シンガポールでバカンスを送るコナン一味が片手間で事件を解決するという内容になっています。
シリーズとして異様なまでに、後出しジャンケンと徹底的に観客を誘導する作りとなっており、冒頭で明らかな黒幕が登場する。そしてここ後で伏線になりますよと言わんばかりにトランクを強調する。そして、園子が真とのいちゃつきを70%描いた後、「そうそう、謎解きしないとね」と観客が推理する余地が内容に後出しジャンケン的に、ナイフはおもちゃのナイフですよ。黒髪のレイチェル・チェオングと手を組んで暗殺計画をしていたのですよと語り始めるのです。胡散臭い詐欺師が、相手に疑問を抱かす暇を与えないことでコントロールしようとするのと同様の手法です。結局、京極真が試合に出てしまうと優勝してお宝《紺青の拳》を手に入れてしまう。だからありとあらゆる手で、彼を欠場させようとするのだが、園子財閥のせいで計画が狂うという割とどうでもいい内容なのです。あんなに《紺青の拳》が大事ですよと語っているのに、セキュリティが幾ら何でもガバガバで、平気でコナンは《紺青の拳》の入っている金庫に入れてしまうし、キッドを易々と中に入れすぎです。結局のところ、宝石を海賊に渡すことへのメリットもよく分かりません。確かに大昔の海賊なら分かるが、今の時代、お宝をどのように運用するのかの方法を魅せないと、結局なんで海賊があそこまで協力したのかもわからないし、その海賊を裏でコントロールしていたのがシンガポール警察の弱そうな男でしたとネタバレされても、正直どうでもいいですと言いたい。
でもね、コナンっていうのは最低限守らないといけないルールがあると思うんだ。
それは、
「コナンの招待バレるかバレないかサスペンスだ。」
毎回、毛利蘭に、自分が工藤新一の縮んだ姿であることを悟られないようにするもどかしさが描かれます。それがコナンとしての最大のアイデンティティなのです。それで今回は、パスポートも持たないコナンがシンガポールに密入国し、毛利蘭に「アーサー・ヒライ」と偽って暗躍する姿が描かれている。怪盗キッドは工藤新一に扮していて、観客はまるでアルフレッド・ヒッチコックの『ロープ』さながらのバレるかバレないかスレスレの攻防にドギマギするのです。
それが、最初こそコナンは慎重に行動していったのだが、時間が経つごとにドンドン行動が豪快になっていき、毛利蘭に招待をバレることを望んでいるかのように動き回るのです。やはり、型破りとは型を知らないと型なしになってしまうわけで、本作は守るべき型までも破ってしまっている印象が強かったです。
せめて、そこだけは守って欲しかった。
シンガポール政府に訴えられるのでは?
最後に、個人的に驚いた部分についてお話ししよう。なんと本作の被害総額は、ゆうに『スカイスクレイパー』を超えているのです。なんと、シンガポールの象徴であるマリーナベイ・サンズの3つのビルに横たわる巨大な屋上を倒壊させ、海に突っ込ませるのです。コナン一味があまりに飄々余裕綽々としているので忘れがちですが、地上ではクーデターレベルの銃撃戦が展開されているのです。しかも、犯人の野望が、シンガポールの街を木っ端微塵にして、再開発を行うことで巨額の富を得ようとする、鬼畜な計画だったりするので、これはよくシンガポール政府に訴えられないな。『麻雀放浪記2020』より不謹慎だと感じました。まあ、これがアニメならではの力なんだけれどね。ってわけでシンガポール政府から訴えられるの待った無し、日本の刺客がシンガポールを破壊しまくり、『スカイスクレイパー』のロック様も青ざめる被害総額を叩き出したコナンは、ブンブンのハートも壊してしまいました。正直ガッカリだし、年間ワーストでした。
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