ウィーアー リトル ゾンビーズ(2019)
WE ARE LITTLE ZOMBIES
監督:長久允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏、いとうせいこうetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。2017年、一つの短編映画が日本映画クラスタの間で話題となった。その名も『そうして私たちはプールに金魚を、』。本作は電通のコンテンツビジネス・デザイン・センターでCMプランナー・コピーライターをしている長久允(ながひさ まこと)がYahoo!トピックスにアップされていた「埼玉県の女子中学生が400匹もの金魚をプールに放った」という事件にインスパイアされ、有給を使って作成された自主制作映画です。本作は、一言でいうならば『台風クラブ』を30分にZIP圧縮し、中島哲也カラーでコーディングしたような爆発力のある作品。その爆発力の凄さから、第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門で日本映画初のグランプリを受賞しました。
あれから2年、彼は長編映画に挑戦する。120分の中で前作同様、サイケデリックな映像と独創的な物語を製作。そしてなんとまたしても快挙を成し遂げた!
長編初監督作にして第35回サンダンス国際映画祭審査員特別賞、第69回ベルリン国際映画祭スペシャル・メンションを受賞したのです。しかも、どちらも日本映画初の快挙なのです。
そんな『WE ARE LITTLE ZOMBIES』日本公開6/14(金)のところ、ご縁ありまして一足早く鑑賞させて頂きました。そして、上半期ブンブンシネマランキング2019にランクインしそうな傑作でした。ってことで今日は、本作の魅力について語っていきます。
『WE ARE LITTLE ZOMBIES』あらすじ
「そうして私たちはプールに金魚を、」が第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門でグランプリを受賞した新鋭・長久允監督の長編デビュー作。音楽を通して成長していく子どもたちの物語を、ギミック満載の映像表現や独特のセリフ回しで描く。火葬場で出会ったヒカリ、イシ、タケムラ、イクコは、両親を亡くしても泣けなかった。ゾンビのように感情を失った彼らは自分たちの心を取り戻すため、もう誰もいなくなってしまったそれぞれの家を巡りはじめる。やがて彼らは、冒険の途中でたどり着いたゴミ捨て場で「LITTLE ZOMBIES」というバンドを結成。そこで撮影した映像が話題を呼び社会現象まで巻き起こす大ヒットとなるが、4人は思いがけない運命に翻弄されていく。「そして父になる」の二宮慶多、「クソ野郎と美しき世界」の中島セナらが主人公の子どもたちを演じ、佐々木蔵之介、永瀬正敏、菊地凛子、池松壮亮、村上淳ら豪華キャストが脇を固める。第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門でスペシャル・メンション賞(準グランプリ)、第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック・コンペティション部門で審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞。
※映画.comより引用
これは観る《分子ガストロミー》だ!
本作は、『そうして私たちはプールに金魚を、』で魅せた疾風怒濤、台風のように過ぎ去るサイケデリックな世界を120分に引き伸ばした作品だ。雰囲気としては、『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』頃の中島哲也映画を思い浮かべると容易に想像できることでしょう。そして映画ファンからすると、このサイケデリックな2時間に不安を感じることでしょう。「見かけ倒しの作品なんじゃないの?」
「実験映画に2時間も付き合わされるなんて辛すぎるぜ」
エトセトラ、エトセトラ…
確かにブンブンは不安でした。ブンブンは前作の『そうして私たちはプールに金魚を、』は大好きで、その年のブンブンシネマランキング個人賞の短編部門グランプリに選出しているぐらい、あの荒ぶる思春期の感情の具現化にノックアウトされました。
『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の世界に身を任せる。するとキレッキレッの映像が今回も繰り広げられる。そこへバカリズムのシュールな、風刺コントのように、あるいは『斉木楠雄のψ難』さながらの冷静沈着なツッコミが、電子音、中島哲也的サイケデリックな色彩の混沌で繰り広げられます。
「火葬場から出る煙ってスパゲティにかける粉チーズみたいだね」
「骨って、ただの白い塊だから悲しくないね」
「葬式って死ぬほど退屈だね」
と辛辣なツッコミを、二宮慶多扮する少年ヒカリが仕掛けていくのです。そこに生まれるシュールな笑い。観客は、冒険の書が開く前から、長久允の世界に没入させられるのです。ただ、やっぱり不安になります。この一発芸盛り合わせのようなものを2時間持続させるのはかなり厳しいのでは?
ただ、そんなことは杞憂でしかありませんでした。
これが途轍もない物語へと発展していくのです。まるで《分子ガストロミー》のような驚きが観客に迫り来るのです。
親を捨てよ町へ出よう
両親をバス事故で失った、少年ヒカリは『大人は判ってくれない』のドワネル少年さながら、塾の先生に「親が死にました」と欠席理由を告げ、去っていく。そんなヒカリ少年に集まる3人の友人。みんな家族を失ったり、DVに怯えたりと、壊れてしまった家から出ようとしている者だ。そんな彼らは、RPGさながら「ヨニンハナカマニナッタ」。
《書》を通り越して、《親を捨てよ町へ出よう》と言わんばかりに、冒険を始めるのです。
そして、『万引き家族』を彷彿とさせる、万引きや強奪、不法侵入と様々な犯罪を犯していく中で絆を深め合い、全く予期せぬベクトルへと物語は転がっていくのです。
前作は、物語性というよりかは、CM的映像パワープレイだったのに、対しこちらは物語性まで考え抜かれています。鬼に金棒だ!
これぞ令和元年映画だ!
何と言っても、この映画は令和元年を象徴する作品でもありました。一見するとゾンビの要素はお飾り程度かもしれない。人によっては、「ゾンビ関係ないじゃん」と思うかもしれません。しかしながら長久允監督は《ゾンビ》に、ジョージ・A・ロメロ譲りの強いメッセージを籠めていたのです。見掛け倒しで薄っぺらく見えてしまう本作。しかもとってつけたかのようなゾンビ描写がさらに見掛け倒しを強調する。ただ、家出少年少女がただ歩いているだけで、人々はネタやゴシップを求めるようにやってきては消えを繰り返す様子は今を表していると言えよう。
思い返してほしい。新元号《令和》が決まる瞬間を。SNSではコラ職人や企業が全力で、新元号の発表とともにコンテンツを製作した。ゴールデンボンバーは2時間で新曲をリリース。街では急ピッチで作られた新元号ハイチュウやコカコーラが配られた。Twitterでは、《令和》という地名や人物を探すのに追われ、クリエーターは爆速で令和にまつわる作品を発表し、転売ヤーは街中で配布されている号外を奪い合いメルカリで高値をつけた。そして夕方になると、Twitterではそんな新元号に狂う人々を揶揄する声が大きくなる。ブンブンは平成になる瞬間を見たことがないので、あの時代の熱量は分からない。しかしながら、SNS時代の誰もがビッグニュースを追い求めているこの狂乱混沌は30年前にはなかったことでしょう。
長久允監督は広告畑の監督。広告というのは、風のように人々の記憶を通り過ぎていく存在。何年も語り継がれる広告なんて一握り。消費されるメディアのことをよく知っているからこそ、この《WE ARE LITTLE ZOMBIES》の色彩の洪水には説得力があります。膨大な情報が人々脳裏を物凄い勢いで通り過ぎていく。そして一度、何か目立つものがあるとゾンビのように人々は群れてその目立つものへと向かう。
まさにこれって《ゾンビ》だよね。それも、誰もが小者な《WE ARE LITTLE ZOMBIES》だよね。
と長久允監督は訴えていたのだ。もちろん、新元号のことなんか考えて製作はしていないのですが、そんな熱し易く冷め易い時代を投影しているのは確かです。
ということで、日本公開は6/14(金)。是非劇場でウォッチしてみてください!
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