『私の20世紀』:『心と体と』のエニェディ監督デビュー作は恍惚によって観客を翻弄する

私の20世紀(1989)
Az en XX. szazadom

監督:イルディコー・エニェディ
出演:ドロタ・セグダ、オレーグ・ヤンコフスキー、パウルス・マンカーetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今年は、ブンブンが長らく観たかったハンガリー映画が2本も公開されます。一つは鬼才タル・ベーラが放つ7時間に及ぶモンスター映画『サタンタンゴ』。そして、もう一つが『私の20世紀』だ。ブンブンが初めて『私の20世紀』を知ったのは数年前。尊敬している映画祭ブログ「海から始まる!?」の管理人が「より個人的な好みを反映させた100本のオススメ映画(90年代を中心に)」という記事に載せたリスト。『マーズ・アタック!』といった作品から、『アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生』、『音のない世界で』などといったコアな映画ファンが唸る作品、そして全く聞いたことの内容なマニアックな作品までバランスよく配置された100本のリストに『私の20世紀』が掲載されていました。予告編を観て、これは観たいと思い、Amazonで調べてみたら、数万円のプレミアがついていました。買おうか買わないか迷っているうちに誰かに買われてしまい、長い間ずっと観たいなと思っていました(実は、その最後の1本を買ったのは、ブンブンの親友であり映画超人のKnights of Odessaさんだということを後に知るのでした)。
ってことで初日に観てきました。

『私の20世紀』あらすじ


「心と体と」で2017年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したハンガリーの鬼才イルディコー・エニェディ監督が1989年に手がけ、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞した長編デビュー作。激動の20世紀の幕開けを背景に、生き別れた双子の数奇な運命を美しいモノクロ映像で描く。1880年、エジソンが発明した電球のお披露目に世界が沸き立つ中、ハンガリー・ブダペストに双子の姉妹が誕生する。リリ、ドーラと名付けられた双子は、孤児となり幼くして生き別れてしまう。1900年の大みそか、気弱な革命家となったリリと華麗な詐欺師となったドーラは、偶然にもオリエント急行に乗り合わせる。ブダペストで降りた双子は謎の男Zと出会うが、Zは双子を同一人物と思い込んで2人に恋をしてしまう。「鏡」「ノスタルジア」のオレーグ・ヤンコフスキーが謎の男Z、ポーランド出身の女優ドロタ・セグダが主人公の双子とその母の3役を演じる。日本では90年に劇場公開。19年3月、4Kレストア版でリバイバル上映。
映画.comより引用

引き裂かれた二人のマッチ売りの少女、時代の狭間にて邂逅

広場に人々が集まる。すると、ぼわぁと眩い恍惚の点々が浮かび上がるのだが、フッと消えてしまう。人々は文句を言うと、再び恍惚な灯りが広場を照らし、歓声が空間を包み込む。そして、人々はエジソンの名を呼ぶ。歓びに満ち溢れる群衆の真ん中に佇む男へフォーカスがあたり、宇宙の彼方から二人の少女の囁きが聞こえてくる。そして、声の主である双子リリ&ドーラの数奇な人生が幕を開けます。二人の少女は、貧しい家庭に生まれ、マッチ売りの少女として寒空雪の中、営業をしている。だが、マッチ売りの少女とは違い、双子だ。仲良く行動し、怪しいおっさんからは距離を置く。そして一緒に眠り、ロバの夢を見る。そこに謎のおっさんが現れ、二人は別々に誘拐されてしまうのだ。そして、バラバラになってしまった双子をとある男Zが奇妙な形で引き寄せてくる。

リリ、ドーラ、そして彼女の母をドロタ・セグダ一人が演じているので、観客はZ同様混乱してくる。あまりのキュートさと、得体の知れないバッググランドの奥行きにズルズルと引き込まれていく。そして、イルディコー・エニェディは本筋を語るのに飽きてしまったかのように、時代感もあっているのかすらよく分からないエピソードを次々と展開していく。エジソンが電球開発のために竹を考慮に入れる。エジソンのライバルであるテスラが、電気を使った実験を行い、人々を驚かせる。今やインターネット社会で、なんでも知った気になってしまっているが、あの頃の技術と言うのはある種の魔法で、人々は純粋にその技術を分からない面白さとしてと楽しんでいた空気感を再現しようとしている。かと思うといきなり動物園にいるゴリラが観客に語りかけてきて、「俺の身の上話でも聞いてくれ」と自分が何故檻に入れられているのかについて解説し始めたりする。途中で妹自慢を入れてくるこのゴリラさんにあっと驚かされます。終いには、ボンバーマンかよ!と思うほど絵に描いたような丸型爆弾を持って慌てふためき始めます。

無軌道に、気の向くまま双子は人生を爆走し、Zはとことん翻弄される。それをイルディコー・エニェディ監督は『上海から来た女』、『バルタザールどこへ行く』、『とらんぷ譚』、『素晴らしき哉、人生!』などといった作品を巧みにサンプリングして、頭から尻尾まで美味しく頂ける耽美な映像の中で繰り広げる。なので、あまりにトリッキーなストーリーについていけなくなるものの、最後はご機嫌で劇場を後にすることができる作品となっています。特に終盤、鏡の間で巻き起こるとあるエピソードには鼻血が出そうになるくらい燃え上がりました。ドロタ・セグダが可愛すぎてこれは発狂ものです。

劇場で観れてよかった!ある意味、DVDを買って観なくて正解でした。

そして『シモン・マグス』に引き続き、イルディコー・エニェディ作品の面白さに夢中になったので、『心と体と』や『Magic Hunter』なんかも観てみたいなと思いました。

入場者プレゼントのマッチ箱が神!

実は、この日はアンスティチュフランセの特集上映で『シェヘラザード』と『ソフィア・アンティポリス』を観ようと思っていたのですが、入場者プレゼントでマッチが支給されるということなのでアンスティチュフランセ行きをキャンセルしました。観てください、このカッコよさ!入場者プレゼントって、ブンブンあまり興味がなくて、いつもときめかない。こんまりメソッドにしたがって捨てようかなと思いつつも、なんだかんだいって部屋の奥に押し込み保管する厄介な存在なのですが、今回映画オタク歴10年にして初めてときめきました。キュン!となったのです。マッチは、小学校の理科の時間でしか擦ったことないし、非喫煙者、鍋パーティやバーベキューもしない男なので、全くもって使いどころがないのですが、これは家宝として永久保管したいなと思いました。

Köszönöm!(ありがとう!)

おまけ1:「海から始まる!?」の好きな作品100選

真面目にハイレベルすぎて尊敬します。単なる逆張り、天邪鬼、レア映画好きな自分に酔いしれる自惚れではないチョイスってところも好感です。

□ 愛に関する短いフィルム
□ あこがれ美しく燃え
□ アナとオットー
□ あの娘と自転車に乗って
□ アフター・ダーク
□ アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生
□ インド夜想曲
□ イン・ベッド・ウィズ・マドンナ
□ ウィンター・ゲスト
□ ウェールズの山
□ エレメント・オブ・クライム
□ 王妃マルゴ
□ オーソン・ウェルズのオセロ
□ 夫たち、妻たち、恋人たち
□ 音のない世界で
□ 乙女の祈り
□ オルランド
□ カウチ・イン・ニューヨーク
□ 狩人の夜
□ カル
□ 季節の中で
□ キャリントン
□ キリング・ゾーイ
□ クリスマスに雪はふるの?
□ 恋の力学
□ 公園からの手紙
□ ゴールデン・ボールズ
□ 子供たちの城
□ コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス
□ ザ・コミットメンツ
□ 差出人のない手紙
□ サラ・ムーンのミシシッピ・ワン
□ シクロ
□ シュウシュウの季節
□ 深紅の愛 DEEP CRIMZON
□ スウィーティー
□ スタン・ザ・フラッシャー
□ ステップ・アクロス・ザ・ボーダー
□ ストーミー・ウェザー
□ スナッパー
□ 素肌の涙
□ スピリッツ・オブ・ジ・エア
□ 双旗鎮刀客
□ タイタス
□ 太陽に暴かれて
□ 太陽の誘い
□ 小さな赤いビー玉
□ 月の子ども
□ 妻への恋文
□ ディル・セ 心から
□ 天国の半分
□ 童年往時
□ トゥリーズ・ラウンジ
□ 遠い声、静かな暮らし
□ 都市とモードのビデオノート
□ ドラックストア・カウボーイ
□ ドレス
□ ドント・ルック・バック
□ BACK TRACK
□ パトリシア・アークエットのグッバイ・ラバー
□ バンカー・パレス・ホテル
□ ヒア・マイ・ソング
□ 独りぼっちのジョニー
□ ひなぎく
□ FISHING WITH JOHN
□ フェティッシュ
□ 冬の旅
□ ブラザー・フロム・アナザー・プラネット
□ ブラック・ムーン
□ ブルーベルベット
□ ブレード
□ プロスペローの本
□ ぼくの美しい人だから
□ 保護なき純潔
□ ボブ・ロバーツ
□ ホワイトドッグ
□ マーズ・アタック!
□ 麻花売りの女
□ マルメロの陽光
□ 魅せられて四月
□ ミフネ
□ ミラクル・ペティント
□ ミルドレッド
□ 柔らかい殻
□ 楽園の瑕
□ ラヴ・セレナーデ
□ ラッキー・カフェ
□ ラテン・アメリカ 光と影の詩
□ ラ・マスケラ
□ リトルマン・テイト
□ リュシアン 赤い小人
□ ルナ・パパ
□ レオロ
□ レディバード・レディバード
□ ロゼッタ
□ ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ
□ ロリータ
□ 私の20世紀
□ 私の好きな季節
□ ワン・フルムーン

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ロシア・東欧映画に強い且つ世界史マニアなので、他の映画ブログからは知ることのできない情報を入手できます。凄まじい映画超人だ!

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