【ネタバレ考察】『ちいさな独裁者』白黒バージョンの方を観てみた

ちいさな独裁者(2017)
Der Hauptmann/The Captain

監督:ロベルト・シュベンケ
出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウetc

評価:80点

こんにちは、チェ・ブンブンです。

今、noteでとあるリーク記事が物議を醸している。君は山かさんの書いた「私たちの知らない間に小さいけど、大きく改変されていた映画の話」によると現在公開中の『ちいさな独裁者』が、どうやら日本だけカラー版で上映されているとのこと。国際マーケティングの都合で、別バージョンが配給されるケースは珍しくない。特にインド映画ではよく起きることなので、別に気にしてはいなかった。そして、ナチスやホロコーストを扱った映画はあまりに量産されすぎていて、そこまで声を荒げる必要ないのでは?と思っていた。記事を読み、日本版と海外版の予告編を比べてみると、次第に「これは白黒で観ないと意味がない作品なのでは?」と思うようになりました。奇遇にも米国iTunesに白黒版が配信されていたのでレンタルで観ました。

鑑賞して「白黒で観て欲しい映画だった」と強く感じました。

今日は、ネタバレありで、白黒バージョンの良さについて語っていきます。

『ちいさな独裁者』あらすじ

1945年4月。敗色濃厚なドイツでは、兵士の軍規違反が続発していた。命からがら部隊を脱走したヘロルトは、偶然拾った軍服を身にまとって大尉に成りすまし、道中出会った兵士たちを言葉巧みに騙して服従させていく。権力の味を知ったヘロルトは傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついには大量殺戮へと暴走しはじめるが……。
 ※映画.comより引用

ドイツ/アメリカ公開バージョンはパートカラーだ!

まず、ドイツ/アメリカバージョンは完全白黒映画ではないことを報告します。本作は、香川照之主演の『鬼が来た!』(余談だが、『鬼が来た!』のチアン・ウェン監督は『ローグ・ワン』でベイズ・マルバスを演じてました。)のラストで白黒からカラーに切り替わる演出と似たような演出が施されている作品です。

部隊長になりすまし、収容所で極悪非道な殺戮を繰り返した末に、爆撃で消滅した舞台の今をカラーで魅せるという演出が施されています。長閑で、黄金色の草が生い茂る美しいカラーの景色と退避させることで、物語が持つ残虐性を強調させる効果的な演出となっています。

美しくも不気味な世界

結論から言うと、個人的に白黒版の方が良かったと思います。もちろん、カラー版を観ていないので断言はできないのですが、日本版予告編と比較すると圧倒的に画の作り込みが素晴らしいです。

冒頭20分、部隊から逃げたヴィリー・ヘロルトの逃走劇が幕を開ける。暗闇で次々と仲間が殺されていく恐怖から脱した時、彼の目に映り込む真っ白い大地が非常に美しい。そして、自由を得たような広大な大地にポツンとオンボロな車が止まっている。車を漁ると、リンゴを見つける。白く光るリンゴを頬張る彼の姿に観る者は釘付けとなることでしょう。そして、中にあった軍服を来て、サイドミラーから自分の姿を観るシーンの圧倒的にカッコいい構図を観ると、これは徹底的に画面作りに拘った作品なんだとわかる。確かに、日本版予告編にあった同一シーンは、白黒に寄せた色彩になっているのだが、やはり《色》がノイズとなってしまっている。

今の時代における白黒映画の良さと言うのは、雑音だらけになってしまうカラー映画に対し観客にピンポイントの注目を向けさせることができるというところにある。本作は白黒になったお陰で、弱者から強者に化けていくヴィリー・ヘロルトの心理的世界に観客がどっぷりと浸かることができるのです。

20分の逃走劇の末に、独裁者の片鱗を魅せ、“Der Hauptmann”と赤字のタイトルが出る。痺れるタイトルにより、本作は非常に恐ろしい物語へと変貌を遂げていく。1人の兵士を、自分サイドに取り込み、次は村人を取り込む、次第に組織が大きくなっていくと共に、ヴィリー・ヘロルトは支配欲に溺れていく。自分から手を下さなくても従順な仲間が、敵をやっつけてくれる。最初は、自分の正体がバレないかビクビクしていた彼が、次第にニヒルで冷酷非道な顔へと変わっていくマックス・フーバッヒャーの演技に背筋が凍っていきます。

白黒版だと、鮮血が真っ黒で見辛い。しかし、その見辛さが、観る者の脳裏に強烈な暴力を思い浮かばせ、ゾッとしてくる。穴に捕虜を押し込め、歌わせる。そこに砲弾をぶち込む。簡単には殺さない、散々捕虜を怯えさせた後に、仲間に射殺させる。直接的な人体破壊は魅せないのだが、キレのあるカット割でドンドン恐怖を上乗せしていきます。

本作は、邦題通りミクロな世界で独裁者が生まれていくまでの過程を描いた話である。ミクロな話だけに、アイヒマンがなぜあんなにも残虐なことをできたのか?仲間はどうして思考停止して、非人道的な殺戮を繰り返す凡庸な悪に染まってしまったのかがよく分かる作品となっている。確かに、一般人は白黒映画と聞くと敬遠することはブンブンも経験からよく分かる。それでもやはり、白黒の方がカッコいいし、主人公の悪に対する商店が鋭くキマっている。今回の日本公開はちょっと残念な形ではあったのですが、これは高校生に観せたい傑作でした。

ロベルト・シュベンケのキャリアが面白い件

最後に、監督のキャリアについて言及します。本作を撮ったロベルト・シュベンケのキャリアをみるとあまりにも作家性の激変に驚愕します。なんたって、彼は『RED』や『ダイバージェント』シリーズといったボンクラ映画ばっかり作ってきた監督なのだから。そんな彼が、本作で、ドイツ映画賞を席巻し、 作品、編集、作曲、助演男優賞(アレクサンダー・フェーリング)の4部門ノミネート音響賞受賞まで果たした。恐らく、本当はこういう映画が撮りたかったのであろう。これは今後のロベルト・シュベンケ作品に期待が持てそうです。

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1 個のコメント

  • filmarksから来ました。
    白黒だったとは知りませんでしたので、非常に興味深く拝読させていただきました。
    私は原題で画像検索するのが趣味なんですけど、モノクロしか出てこないんで何故だ!と思っていたのですが、原因が分かりました。

    私が配給会社に対して思うことは、原題と邦題の乖離が酷いことです。
    この「小さな独裁者」という邦題も例に漏れず乖離しており、原題の皮肉さや内容の重さを隠していると感じます。
    まあ、出来るだけ取っ付きやすそうな邦題にした方が客の入りがいいのでしょうけど。

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