【東京フィルメックス】『盆唄』ダークホース!故郷を失った者が壮大な時の円環の中で唄を継承する大傑作

盆唄(2018)
BON-UTA

監督:中江裕司

評価:80点

『ナビィの恋』で有名な中江裕司最新作。2/15(金)よりテアトル新宿で公開となる本作を、東京フィルメックスで一足早く拝見しました。実は、正直期待はしていませんでした。たまたま次の映画までの時間潰しがてら観たのですが、これが大大大傑作でした!!!

『盆唄』概要

福島県双葉町の人々は東日本大震災で、帰宅困難地域に指定されてしまった為散り散りとなった。あれから5年が経ち、人々は集まる。双葉町に伝わる盆唄がこのままでは失われてしまう。どうにかして継承せねばと思い立つ。そんな中、遠く離れたハワイで、フクシマオンドが継承されている話を聞く。そこで、盆唄をハワイに伝えようと、双葉町の人々はハワイに渡る…

Bon-Uta, Bon temps, Born a dance!

東日本大震災により、帰宅困難地域に認定された福島県双葉町。そこには、先祖代々受け継がれた《盆唄》があった。伝統消滅の危機に、散り散りとなった双葉町の人々は立ち上がる。ハワイに移住した人々がフクシマオンドを継承しているのを受け、《盆唄》の伝統をハワイに送り届けようとする内容。

東日本大震災によって、福島の人々は故郷を失った。それを撮るとなると、感傷的で絶望と怒りに満ちたドキュメンタリーになりがちだが、本作は全編《希望の光》で包む。

伝統が塵のように消えてしまいそうだ!伝統を遺そう!双葉町の人々に風の便りが如く届いたのは、日本から遠く離れたハワイで福島の盆踊りが受け継がれているということだ。じゃあ、ハワイに《盆唄》を輸出すればいいのではとなる。こういう話が出た時、必ず伝統が云々、他所者に継承したくないという保守派が現れるのだが、双葉町の人々は、「語り継がねばならん」と余計なプライドを捨て、ハワイに渡る。決して老害に陥ることなく、率先して暫く触れてこなかった《盆唄》のサビを抜いていく。

今年ゃ豊年だ
穂に穂がほら咲いてよ
はいよはいよ

と楽しそうに、でも真面目に伝えていく。

すると、ハワイに伝わったフクシマオンドの変遷と自分たちの境遇が似ていることに気づく。出稼ぎでハワイに来たものの、貧しく国に帰れなくなった者。その哀しみを拭うように、唄に魂を込めて、二世三世へと語り継いでいった。双葉町の人々も故郷を失った。しかし、感傷的になり内に引きこもってしまったら何も生まれない。自分たちの歴史を後世に伝える必要がある。

ハワイ渡航で、妥協、諦めの境地にあった双葉町の人々はより一層《盆唄》に対する情熱を高めていく。

盆踊りなんて、古臭いと思っていたが、この映画で改心した。

Bon-UtaがBon temps(良き空間)の中で醸造され、新しい形としてBorn a danceする。なんだ最先端じゃないかと。

劇場故、双葉町の人々と一緒に踊れない辛さが私を包んだが、絶望的なまでに壊滅した地から、萌芽する様に涙した。

この作品は、企画当時テレビドキュメンタリーにするかドキュメンタリー映画とするか定まっていなかった。監督自身も、どちらかというとこの企画に後ろ向きなまま製作が開始した。ハワイパートは監督が撮っていなかったりする。それが様々な奇跡と発見が繋がりあって、一つの物語となってくる。東日本大震災は多くを奪った。その悲しみを5年10年単位で見てしまうと悲しいだけだ。50年100年という長いスパンで見ると、歴史を作り出すロマンが見えてくる。この映画に登場する双葉町の人々は、老体でありながらも、ハワイと日本が織りなす壮大な物語を吸収し、ロマンに人生を捧げた。震災ドキュメンタリーは定期的に製作されるが、一本ぐらいこんな希望しかない作品があってもいいではないかと訴えてくるこの熱量にノックアウトされました。

間違いなく、来年度のキネマ旬報ベストテン文化映画部門に選出されるであろう。

Filmarksには全然レビューが上がっておらず、あまり食指が動かないとは思いますが、ブンブンが胸を張ってオススメする大傑作です。是非2/15(金)より劇場でお楽しみください。

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