THE DEAD NATION(2017)
監督:ラドゥ・ジュデ
評価:60点
MUBIに日本未紹介のルーマニア出身新気鋭映画作家ラドゥ・ジュデの新作がアップされていた。ラドゥ・ジュデといえば、貴族に雇われた警察官が消えた奴隷を探す”Aferim!”でベルリン国際映画祭監督賞を受賞し、一躍注目された監督だ。“Aferim!”は予告編を観ると、非常に面白そうだったのだが、未だに日本に紹介されていない作品。ブンブンずっと観ていたいと思っている中、今回彼の別の作品がMUBIで配信されていた。ラドゥ・ジュデ入門として観てみた。『THE DEAD NATION』あらすじ
1930~40年代の写真からルーマニアの歴史を紐解いていく…珍しい写真映画
本作は世にも珍しい写真映画です。写真映画とは、『ラ・ジュテ』や『シルビアのいる街の写真』のように、写真を並べるだけで物語る作品のこと。映画最大の特性である《動き》を封印してしまうので、映画には向いていない手法なのだが、『ラ・ジュテ』のように写真と写真の狭間が観る者の想像力を掻き立てて、独特な面白さを生み出すことがある。
本作は、クロード・ランズマンが『SHOAH』や『ソビブル、1943年10月14日午後4時』が対話だけで観客の脳裏に強烈なアクションを焼き付けるように、写真と写真の狭間。《静》の空間の裏側から流れる音という《動》が観る者の好奇心を掻き立てます。Costica Acsinteが1930年に設立したルーマニアの写真スタジオ”Foto Splendid”で出土した膨大な白黒写真。1930~1940年代のルーマニアの写真で、第二次世界大戦、ルーマニアやソ連に侵略されまさしく《THE DEAD NATION》になる直前の写真を、当時の音を絡めて解説していく。他の国が知らない、悲惨なルーマニアの歴史を伝えようとする。
1枚の写真は、ただの肖像、ただの風景、ただの家族写真だったりする。それが重なり合うことで歴史の重みが伝わってくる。映画というコンテンツでこのような世界を魅せられると、普段見かけないことによる違和感から、《写真》という媒体について深く迫ることができる。写真展では、何をどのように、どれぐらい配置するかで、アーティストあるいはキュレーターのメッセージが観客に刺さるかどうかが決まってくる。それと同様に、この映画もインパクトのある写真と音源の絶妙なコントラストによって、観客のルーマニア史に対する注目を引きつけることができる。本作は、THE 映画祭映画故に一般公開はされなさそうだが、一見の価値ある作品である。
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