『あやつり糸の世界』ファスビンダー幻のSF映画に惚れよ!

あやつり糸の世界(1973)
原題:Welt am Draht
英題:World On A Wire

監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:クラウス・レーヴィチュ、
マーシャ・ラベン、アドリアン・ホーフェンetc

評価:80点

2016年に日本で公開されたニュー・ジャーマン・シネマの巨匠R.W.ファスビンダー幻の作品『あやつり糸の世界』。丁度、その頃就活時期で金がなく観に行くことが出来なかった。TSUTAYAにはDVDは置いておらず、Netflixでも配信されていないので、Amazonでブルーレイ買ってみました。

『あやつり糸の世界』あらすじ

時は近未来。仮想世界によって未来を予測させる「シミュラクロン」の開発が進んでいた。しかしある日、研究主任のフォルマー教授が謎の死を遂げる。後任としてシュティラー博士が就くのだが、保安課長ラウゼの失踪を期に彼の周りで怪奇現象が起き始める。原因を追求すべく、自らシミュラクロンを試すことにするが…

圧倒的仮想世界論

『マトリックス』や『インセプション』よりも先に、仮想世界理論を映画で表現していたファスビンダー。あのエメリッヒが本作に惚れ込んで『13F』を製作したらしい。

そこには圧倒的なSF論と仮想世界への深い洞察があった。まずSF論だ。未来世界、人々は裕福さを求め、合理的に合理的にと物事を進める。その末路が、異様に冷たい社会だ。インテリアはどれもかっこいいのだが、冷たい印象を受ける。人々の感情には情が失われており、全てが「規則なんで」というセリフを合言葉に進む。例え、誰かが不遇な死を遂げても、目の前で死んでも、誰も興味を抱かない。ただの情報として事務的に処理してしまう。コンピュータの情報以外を信用しない。一見すると現実離れしたような物語に見えて、これって現代社会、ってか日本がそうなのではと思うほどに不気味さを帯びている。

未来的なものはコンピュータしか出てこないのだが、それでも未来の映画だと思える所以はこの徹底したSF論による世界観作りにあると言えよう。

そして、本作の凄いところは、仮想世界に対して物凄く深い洞察力を持っているということだ。我々が生きる世界は仮想世界かもしれない。ただその事実を知れるのは仮想世界を知るものだけ。もし、我々がコンピュータに操られているとしたら、簡単に記憶や情報を操作されてしまう。そこからどうやって脱出すれば良いのか。仮想世界の外側の世界に出たプログラムは超人類になれるのか。知恵熱が出るほどに、我々の人生とは何かと揺さぶってきます。

中でも面白い考察は、中盤コーヒーの色について議論するシーンにある。コーヒーの色は?と訊かれたら、誰しも茶色ないし黒と答えるであろう。しかし、それはコーヒー=茶色と定義されているに過ぎない。我々の生きる世界の外では、コーヒー=紫と定義されている可能性がある。この言語の定義と人間の認識との間にある力学に唸らせられた。

かっこいい映像と共に3時間半楽しい仮想世界論を聞けた。これは買って正解だった。

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