【ネタバレ】『ちいさな英雄』見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだポノック

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間(2018)

『カニーニとカニーノ』:
監督:米林宏昌
声の出演:木村文乃、鈴木梨央

『サムライエッグ』:
監督:百瀬義行
声の出演:尾野真千子、篠原湊大、
坂口健太郎

『透明人間』:
監督:山下明彦
声の出演:オダギリジョー、田中泯etc

評価:60点

TOHOシネマズフリーパスポートを折角発行したのだから、可能な限り沢山映画を観ようとスタジオポノック最新作。『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』を観てきた。それにしても、いつもはフリーパスポートを冬に発行するので気づかなかったのだが、夏ってアニメ映画本当に多いね。

『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』あらすじ

3つの物語からなるオムニバス。

『カニーニとカニーノ』:
カニの兄妹カニーニとカニーノは厳しい自然界の中、逞しく生きていた。ある日、父が川にさらわれてしまい…

『サムライエッグ』:
卵アレルギーの少年と母の苦悩を描いた社会派ドラマ

『透明人間』:
町を彷徨う透明人間。何の為に生きているのか、自分は何者かを模索する…

見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ

昨年、ジブリに鉄槌をと意気込むものの、爆死した『メアリと魔女の花

』を制作したスタジオポノックが、修行として作った3つの短編、評判が割と悪いのと、2話目の予告編で卵アレルギーの子どもに対して「いつかタマゴ食うたりあ!」と言う鬼畜な一面を観たので不安でしたが、ソコソコ面白かった。確かに物語としては微妙だが、スタジオポノックは3つの物語一貫して、《見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ》世界を描いている。

『カニーニとカニーノ』評

イタリア語の雰囲気漂う名前から、カニーニが女でカニーノが男というイメージが強いが本作では逆の様です。カニの兄貴=カニーニということから、日本のカニの話だと分かる。そんな余計な雑音が脳裏をよぎったが、本作最大の見所は、《水》の描写だ。

二次元の世界では表現が難しい《水》。ディズニー、ピクサーの短編『ひな鳥の物語』の様に、全てをリアルに描く手法もあるが、本作では《水》だけリアルに描いている。これは非常に難しい技術で、アニメアニメしているキャラクターとリアルすぎる自然描写、水と油の関係である二つを違和感なく共存させるということだ。そして、本作は見事にそれを成功させている。水中の世界と地上との揺らぎを、陽光の屈折で表現する。画面から、せせらぎの涼しさが客席まで漂う。また、時に水をリアルからアニメアニメしたタッチに切り替えることで、違和感を払拭させている。

まあ、話は語るほどではない、ありきた成長譚なのだが、技術的成長を観た。

『サムライエッグ』評

ジブリ系アニメとしては異例のハードコア社会派ドラマ。庵野秀明が制作に関わっているせいなのか、かなりキツイです。我々が知ったつもりになっている《アレルギー》の怖さを描いている。教職課程の授業で観たい作品だ。タマゴアレルギーを持つ少年と母のキツすぎる人生が描かれる。いきなりショッキングだ!病室で、子どもたちが嫌がっている。何とアレルギーの程度を調べる為に、敢えてアレルギー食材を食べさせているのだ。主人公の少年も卵製品を食べさせられ、腹痛で苦しむ。拷問部屋かよ!と思う地獄絵図が広がっているのだ。

そして、そこからは我々も気をつけないと他人を死に至らしめてしまうようなケースが次々と提示されていく。周りの大人、友だちは軽い気持ちでお菓子を差し出す。タマゴアレルギーに対して配慮しているつもりでも、化合物としてタマゴが使われている。少年が誕生日の日、幼稚園でお祝いのケーキが出される。恐らく卵は使われていないだろうと思ったのでしょう。しかし、実際には卵が使われており、彼は救急車で運ばれてしまうのだ。彼の症状は重く、ちょっとでも口に卵に触れると全身発疹まみれ瀕死になる。祭りで、他の人のタコ焼きか焼きそばかのマヨネーズが飛来し、少年の口に被弾しただけで一大事だ。

全然アレルギーのこと知らなかったと反省したくなる良作だ。ただ、物語に直接関与しない癖に主張は激しい、少年の《野球好き》と言う設定が余計だったり、着地点が、病院でいつかアレルギーが治って卵が食べられるようにと母が「いつかタマゴ食うたりあ!」というオチに弱いもので惜しいと感じた。

『透明人間』評

アニメで《みえない》を描くにはどうしたらいいか?この短編では、透明人間という見えない存在をいかにして見える存在として描くかを模索している。また、それだけではなく《引力》という見えない存在まで描こうとしている挑戦的な作品だ。ストーリーこそ、シンプルでやはりこれまたあまり語るものがないのだが、眼鏡越しに見えるもの、液体の動き、透明人間ならではの身体を通過する空気感というものを見事に捉えていた。

最後に…

今回はスタジオポノックの実験作という感じだったので、ストーリーというよりかは映像的手法の成長を少し確認できた程度のものでした。ただ、どの話も『メアリと魔女の花』よりはブンブンの心を掴んだのは確か。この技術的修行を通じて、STUDIO PONOCは次回、どんな世界を魅せてくれるのか楽しみだ。『メアリと魔女の花』のクオリティを越えて再び、STUDIO PONOCの世界と再会できることを楽しみにしています。

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