アンセイン(2017)
UNSANE(2017)
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:クレア・フォイ、ジョシュア・レナード、
ジェイ・ファロー、ジュノー・テンプルetc
評価:80点
強盗ものからSF、社会派、アート映画に筋肉映画までありとあらゆるジャンルを撮っているスティーヴン・ソダーバーグ監督。『恋するリベラーチェ』を製作して以降しばらく休業していたのだが、4年の沈黙を経て2つの作品を誕生させた。一つはゆる〜い『オーシャンズ』とも言える『ローガン・ラッキー』。そしてもう一つが今回鑑賞した『アンセイン』だ。なんと本作は、全編iPhoneで撮影され、第68回ベルリン国際映画祭で話題になっていた作品だ。日本公開は未定なのだが、今回、Air Canadaの機内エンタテイメントで観ることができました。油断していたが、これが傑作でした。
『アンセイン』あらすじ
キャリアウーマンとして働く女性ソーヤー・ヴァレンティーニは転職も成功し、順風満帆であった。しかし、彼女にはストーカーに遭ったことによるトラウマがあった。ある日、カウンセリングを受けに施設へ足を運ぶ。ここから彼女の地獄の日々が始まった。突然、持ち物は没収され、自殺願望のある患者として監禁されてしまったのだ。警察に助けを求めても、誰も話を聞いてくれない。しかも、恐るべきことに、あのストーカーが施設で働いていたのだ!果たして彼女は、無事施設から出られるのだろうか…iPhone撮影の新境地!
全編iPhone撮影の映画といえば、ショーン・ベイカー監督の『タンジェリン』が有名だが、本作はiPhoneという特性を活かすという意味で『タンジェリン』を上回るクオリティだ。iPhoneと普通の撮影の違いとはなんだろうか?それは《奥行き》だ。iPhoneのカメラは、基本的に近くを撮るためのものだから、被写体を通常のカメラよりも近づけて撮る必要がある。また、一応iPhoneでもズームはできるのだが、シームレスズームが非常にやりにくいため、基本的に固定撮影か、多少のパンを行うぐらいでしか映画に耐えうる映像が撮れない。ただ、一方でGoProなんかのFPS動画に適したカメラと比べると、横幅を意識した撮影ができる。今回、ソダーバーグ監督は、これらの特徴を最大限活かして、《閉塞感》を演出することに成功した。iPhone撮影による不自由さが、そのまま監禁病棟の息苦しさに変換していったのだ。そして、被写体に極端に迫り、背景との遠近感を狂わせていくことで、現実か妄想かが分からない不条理の世界を演出した。iPhone撮影は工夫することによって、ドイツ表現主義のような心理的歪みの具現化を表現できるんだということを観客に気づかせてくれる。
カフカ的厭らしさ
この最大限魅力を引き出したiPhone撮影で展開される話が非常に面白かった。2010年代にフランツ・カフカが小説を書いたらおそらくこうなるであろう。カフカのネチっこいたらい回し、堂々巡りが劇中繰り広げられる。ソーヤーは突如、施設に監禁される。あまりに突然の出来事且つ、腹立たしい出来事だったので警察を呼ぼうとすると、女性担当医が「別に警察呼んでも良いわよ。でも警察は聞いてくれるかしら?」という。この許可+皮肉or否定の構文で、施設に登場する人たちはソーヤーを甚振るのだ。ソーヤーの母が、施設から彼女を救助しようとしても、「別に弁護士を呼んでも良いけれど、私たちにも弁護士はいるわ。おまけに裁判沙汰になったら、彼女のキャリアに傷がつくよ。それでも良いの?」と徹底的に皮肉で希望を折っていく。この厭らしさに背筋がゾクゾクさせられます。
ストーカー登場!
そして、本作最大の見所は、ストーカー男との対決にある。何故か、ソーヤーをかつて悩ませたストーカー男が名前を変えて施設で働いているのだ。しかし誰もその事実に取り合ってくれない。これは幻覚だとまで言われてしまう。もう、この時点で相当ソーヤーも観客も、どこまでが現実でどこまでが虚構か区別できなくなっている。ここから、ストーカー男という幻影との激しい戦いが繰り広げられるのだが、これが最後の1秒まで全く予想がつかない展開に転がっていきます。後半40分の超展開、手汗にぎる描写の数々に熱くなりました。こっから先は、観てのお楽しみ。今の所ビデオスルーになりそうな気しかしないが、劇場公開してほしい一作でした。
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