もくじ
1.ライブで始まりライブで終わる完璧な構成
まず、何と言っても本作最大の見所は、ライブシーンで始まりライブシーンで終わること。B級映画の帝王ロジャー・コーマンは「最初と最後の10分が大事」と語っているが、それがよく分かる。観客の拍手がビートを刻み、興奮が絶頂に到達した時、エレン・エイムが現れ、Lying in your bed and on a Saturday night〜♪
と名曲”Nowhere Fast”が爆音で歌われる。これだけで、観客の魂は映画の中へ吸い込まれてしまう。GIORGIO ARMANI提供のファッション、奇妙な動き、非常にダサいんだけれども、これがカッコイイ!ダサかっこいいとはまさにこれのことだ。
ミュージカル映画として、アクション映画として最強の黄金比と言えよう。
2.実は音楽史映画
実は、この映画は舞台こそリッチモンド(ロケ地はシカゴ中心)なのだが、一昔前のアイドル音楽、それこそモータウンの音楽観を切り取っているように見える。というのも、モータウン全盛期1960年代のアイドルソングというのは、「ヴォーカル+バンド名」というスタイルで売り出されていた。
本作を観ると、まずエレン・エイムが“ELLEN AIM AND THE ATTACKERS”として売り出されているのが分かる。しかし、“ボンバーズ”の襲撃により、THE ATTACKERSは解散してしまう。トム・コーディがエレン・エイム救助作戦を敢行する中出会うのが、駆け出しの黒人バンドThe Sorels。彼は千載一遇のチャンスだとニック・モラリス扮するエレンのマネージャー:ビリー・フィッシュに売り込むのだ。そして最後には、見事コラボ達成“ELLEN AIM AND The Sorels”が爆誕して終わる。そして、本作の劇中歌は、R&B寄り、ブラックミュージック寄りの音楽だったりするのだ。丁度、ロックンロールやR&B等が一つ鍋でかき回され、ロックになろうとするような時代を切り取っている。
3.ライ・クーダーの西部劇愛溢れるサウンド
本作は、エレン・エイムの音楽に注目されがちだが、脇の音楽にも注目してほしい。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
』を発掘した名アーティスト:ライ・クーダーのスコアが非常に西部劇愛溢れていて素敵だ。瞳を閉じると、オレンジの大地、一日一本しか列車が到着しない虚無に満ちた大地をガンマンが馬に跨り歩く様子。寂れた荒野の片隅にある町のバーで、地元民が意気揚々と音楽を、酒を楽しむ情景が浮かぶ。とっても素敵な音楽だ。
4.日本のヤンキー漫画、ヤンキー映画に影響
本作は、言わずとも『TOKYO TRIBE』や『HiGH&LOW
』シリーズに影響を与えている。また、映画にもなった高橋ヒロシのヤンキー漫画『クローズ』は明らかに本作を意識している。『ストリート・オブ・ファイヤー』の敵役レイヴェン《Raven(=ワタリガラス)》に対して《CROWS(=カラス)》を持ってきている時点で、相当好きなんだろうなと思わせられる。また、なんだかんだいって《拳》の肉弾戦で解決しようとする姿は『ストリート・オブ・ファイヤー』の精神を引き継いでいる。
5.『真昼の決闘』の見事なアンチテーゼ
よく、本作はマカロニウエスタンと比較されるが、それよりもアメリカの名作西部劇『真昼の決闘』に対するアンチテーゼだと感じた。『真昼の決闘』とは、悪に立ち向かうべく正義のヒーローが仲間集めしようとするものの、市民は誰も協力してくれず、妻にまで逃げられてしまった男が孤独に悪と戦う。死闘に打ち勝つものの、町の人に失望し町を去るという作品。本作の場合、トム・コーディは次々と仲間を集め、最後には逃げ腰だった市民も一丸となって敵を撃退する痛快なドラマになっている。そして、最後に男は一人で去るのではなく、孤独な女戦士マッコイと結ばれ去る。着地点は一緒なのだが、真逆の物語になっている。まさしく、『真昼の決闘』に対するアンチテーゼだ。しかも、人が死なないというユニークな制約まで設けている。
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