【ネタバレ解説】『ちはやふる 結び』これぞ究極のさらば青春の光!

ちはやふる 結び

監督:小泉徳宏
出演:広瀬すず、野村周平、
新田真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、
森永悠希、清原果耶、
松岡茉優、賀来賢人、國村隼etc

評価:5億点

今から丁度2年前、映画ファンを熱狂させた少女漫画映画があった。その名も『ちはやふる』。末次由紀の同名人気コミックの映画化で、競技かるたに青春を捧げる高校生を描いた作品。当時、監督の小泉徳宏のフィルモグラフィーは『カノジョは嘘を愛しすぎてる』や『タイヨウのうた』と然程評判の良くない作品で埋め尽くされており、原作ファン、映画ファンは一抹の不安を抱えていた。しかしながら、蓋を開けてみれば、宝石のように美しい青春ドラマが凝縮されていて、多くの人を魅了した。ブンブンの妹と一緒に観に行って発狂レベルに興奮した。あの興奮から2年。ついに完結編が公開された。今回、原作ファンの友だちから「一緒に観に行かない?」と誘われた。当然ながら返事はYESだ!ってことでTOHOシネマズ南大沢で観てきた。


劇場はガラガラ(最終的に30~40人)だったけれど、今年『バーフバリ 王の凱旋』に次ぐ5億点ホームラン映画でした。

ってことで、今回ネタバレありでがっつり解説していきます。

『ちはやふる 上の句』感想

『ちはやふる 下の句』感想

『ちはやふる 結び』あらすじ

綾瀬千早がクイーン・若宮詩暢と熾烈な闘いを繰り広げたあの全国大会から2年。瑞沢高校競技かるた部は揺れていた。数少ない新入部員の教育、受験、新たなライバル…輝ける青春の終わり、永遠だと思っていた青春の淵に競技かるた部の仲間たちの心は揺れ動いていた。最後の全国大会。メンバーはそれぞれ自分の高校時代に答えを見出していく…

驚愕の冒頭

本作は、《高校3年生》という特殊で激動の時期を見事に切り出した傑作だ。テーマは「時代は変わる」。それを象徴するシーンを冒頭から連べ打ちにすることで、前2作を遥かに超えるカタルシスが生まれる。

まず冒頭、決勝戦から始まる。観客はてっきり、『下の句』のラストから始めるのかと思う。しかし、人影から見えるのは「誰?」と思わず言ってしまいそうな2人の姿だ。一人は、清原果耶扮する我妻伊織。あの『3月のライオン』の川本ひなたではありませんか!彼女が松岡茉優扮する最強奇人・若宮詩暢を凌駕している。片一方では、國村隼扮するマスター・オブ・ジェダイこと原田秀雄が、賀来賢人扮する周防久志の圧倒的強さに感服しているではありませんか。前者は、異常に速い素振り、後者は未来予知か!と思うレベル、句が読まれる前にそっと札に手を置くチートレベルの強さで若宮詩暢、原田秀雄を翻弄する。そう、時代は変わりつつあるということを暗示させるのだ。

そして、ギョッとする冒頭のシークエンスが終わり、瑞沢高校競技かるた部へとフォーカスが当たる。綾瀬千早たちはもう3年生だ。昨年は新入部員が集まらず、《瑞沢高校競技かるた部廃部》の危機に陥っていた。そこで映し出されるメンバーたち。明らかに2年前と目つきやオーラが違う。大人になっているのだ。特に、机くんこと駒野勉(森永悠希)。2年前は単なるガリ勉で根暗で気持ち悪い人物であった。しかし、今や彼には自信がある。《瑞沢高校競技かるた部》のブレインとして輝いている。もう眩しいほど神々しい。

さて、そんなかるた部に2人の新人が入る。一人は、かるたこそ強いが生意気な筑波秋博、もう一人は真島太一に恋心を抱いて入部したギャル花野菫だ。

個人の成長から後輩の育成へ

前2作は、ならず者たち個人の成長を描いていた。それが今回、彼らが3年生になったことで後輩の育成へと物語はシフトチェンジしている。

綾瀬千早たちは、高校3年生という青春の終わりを前に思い悩む。綾瀬千早はかるた一筋で人生を歩んできていた為、高校卒業後の進路なんて考えたこともなかった。それ故に、周りが受験で気持ちが《かるた》から離れていくことに葛藤を抱く。自分はこのままでいいのか?と。ここの描写に注目してほしいのだが、本作の千早は前2作とは違い、異常に他者を意識している。今まで眼中になかった決勝戦に上がれない他校の負けて泣いている姿、他校の後輩の様子、そして高校を卒業した人たち等が見えてくるのだ。そして彼女は物語の終盤でようやく、《後輩を育てる》《かるたの魅力を伝える》という自分がやりたいことを見つけていく。

一方、真島太一は親から学年1位を取り続けなければ、かるた部をやめろと言われている。なんたって、彼の卒業後の進路は東京大学の理科三類だ。受験も控えているが、こともあろうことか学年1位の座を机くんに奪われてしまう(このシーンに注目。成績表を魅せるだけで、最悪な状況であることを表現している)。泣く泣くかるた部を去る真島太一。しかし、勉強には集中できない。ポーカーフェイスではいるが、心の底には未練が残っている。そして、心の傷を癒すかのように、最強のかるた名人・周防久志に弟子入りする。『スター・ウォーズ エピソードⅤ』のように修行を通じて悟りをひらいていく太一。かるたとは人生のなんだったのかを見出していくのだ。

この二つの葛藤を他の脇役が盛り上げていく、そして美しすぎる景色の中で展開されていく。その世界を覗いていくうちに、自身の高校時代を思い出してくる。ブンブンだけでなく、本作を観た大人は誰しも自身の高校時代を思い返したことでしょう。高校生から見た大学はとてつもなく大きな大海原。手放したくない輝かしい青春、しかし時には逆らえず、次々と人間離れしたライバルが現れ、扱いが難しい後輩の育成に追われる。将来なんか今決められっこないが、周りは進路を次々に決めていく。輝ける青春といかに見切りをつけて手放すか?ということに対し、小泉徳宏監督は一切妥協することなく、究極の美、それも《高校3年生》という空間にしかない美でもって紡ぎだすので、もはや神の所作である。

原作との比較

原作ファンの友だちと鑑賞後に感想戦をしたのだが、原作との比較で面白い話を聞いた。

原作では、かるたが強い後輩・筑波秋博は競技かるたをやったことがない設定だったとのこと(代わりにジャンルが違うかるたが強いという設定)。

本作では、団体戦をやったことがないという設定に変えられていた。これは英断だ。なんたって、原作の設定を踏襲すると、その別ジャンルのかるたを説明する必要が出てきて、冗長になってしまう。しかも、かるた事情を知らない人を混乱させてしまう。

小泉監督は、筑波秋博をしっかり分析し、彼は《瑞沢高校競技かるた部》を通じてチームワークの大切さを学ぶキャラクターであることを把握。軸はズラさずに、改変を加えた。これは上手いなと感じた。

アニメーション部分の解説

友だちから質問があったので、ブンブンなりの解釈を語っておく。

本作は、物語随所にアニメーションが挿入される。句が読まれた1000年前の様子を描くアニメーションが2回流され、2回目は真島太一と綿谷新が如何にも1000年前に句を読んでいるようなアニメーションになっている。このシーンの意味がよくわからなかったとのこと。

これは、本作が《運命》というものを大事にしていることを象徴している。1000年前に村上帝社で行われた歌合で
平兼盛の

忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は 物や思ふと 人の問ふまで

と壬生忠見の
恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか

が闘った。恋心を隠す歌と恋心を表に出す歌が激突した。

それが1000年後のかるた大会にて、真島太一と綿谷新がまさに同じ句の組み合わせで一騎打ちとなっている。この運命の一戦を神格化させる為にアニメーションが効果的に使われていると言える。そして、ラストのラストで再びアニメーションが挿入されるのだが、これは再びかるたの面白さに気づき、楽しみながら打ち込んでいる未来の真島太一や綿谷新を表しているのではないだろうか。過去・現在・未来のシークエンスをアニメーションで強調することで、《運命》という表現が強固なものになっていると言えよう。

最後に…

本作は、卒業シーズン、新しい大海原への出航を心待ちにする今に公開したのは本当に良かったと思う。

2年の歳月をへて成長した千早たちが、苦悩しながらも自分の道を開拓し、成長していく姿に全身が燃えるように暑くなった。しかもそれでもって、笑いが絶えず、試合のシーンはもはや神々の戦いのように清く美しいものがあった。もう文句なしの5億点だ。今年はどうにか本作がベストテンに残って欲しい!そう思ってやまないブンブンであった。

↑Perfumeの主題歌『無限未来』もええぞ!

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