パンとバスと2度目のハツコイ(2017)
監督:今泉力哉
出演:深川麻衣、山下健二郎
もくじ
評価:80点
昨年、私のベストテンに入れた『退屈な日々にさようならを
』の今泉力哉監督最新作。先日映画仲間が、「今泉力哉ってホン・サンスっぽいよねー」と語っていたがこれには納得した。今泉力哉監督は、一見狭いコミュニティの話に見えて、実は壮大な人間模様をトリッキーな脚本で魅せる作家性を持つ。これはホン・サンスに非常に似ている。日本では、まだ映画芸術にも認められていないが、今後海外、特にフランスで評価されるだろうと思い注目している。
そんな今泉力哉監督最新作はなんとアイドル映画。元乃木坂46の深川麻衣と三代目J Soul Brothersのメンバー山下健二郎を主演に撮った作品だ。
故にイオンシネマ海老名には、多数のファンが駆けつけていた。しかし、今泉力哉は今泉力哉だった。案の定、カイエ・デュ・シネマが好きそうな超絶技巧の脚本芸に、映画が終わった後口々に、「ワケワカメ!」「あそこのシーンどういう意味?」みたいな声が相次いだ。個人的に本作から映画好きが増えたら良いなとニヤニヤした。ってことで、じっくり語っていきます。
『パンとバスと2度目のハツコイ』あらすじ
美大を卒業後パン屋で働く女・市井ふみが中学時代の初恋相手・湯浅たもつと再会する。プロポーズを断り恋愛をこじらせていた市井ふみは湯浅たもつと頻繁に会ううちに心を動かされていく…等身大の20代後半、恋の揺らぎ
一見フツーの話に見えるが、今泉力哉の異常なまでの人間関係の伏線張りにより、市井ふみの20代後半の恋愛観の揺らぎが濃密に描かれている。
市井ふみの周りは、既婚者が多く、不倫なんかしている同僚なんかもいる。彼女は、恋愛と結婚によりプライベートが壊されるのではと感じていて、好きで付き合っている男からプロポーズされてもウッカリ断ってしまう。彼女は孤独だ。家族や同僚との仲も良く、何一つ不自由はないのだが、結婚していない彼女はどこか周りと隔絶された透明な箱に閉じ込められたような感じを抱いている。
この葛藤を中学時代の初恋相手との付き合いを通じて乗り越えていく過程が、非常に面白かった。今泉力哉は今回ユニークなギミックを仕掛けており、それが私の心を鷲掴みにしたのだ。
注目ポイント1:絶妙な台詞回し
まず、リズミカルな台詞回しだ。
「ケータイぐらい携帯してよぉ」
「パジャマじゃない、パジャマシャツだ」
といった繰り返しの表現が多く、聴いていて楽しくなる。決して深川麻衣の演技は上手くないのだが、こういったリズミカルな台詞回しを彼女に言わせることで惹き込まれる。
注目ポイント2:小道具に注目せよ!
二つ目に、小道具の使い方だ。本作は、市井ふみの孤独を表現する為に、とある場所にポール・オースターや、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説を設置されている。谷口ジローではないところが非常にシュールだ。だが、このシュールさが本作のテーマを強調するのに凄く貢献している。ここに唸らせられた。
注目ポイント3:二胡というキャラクターは…
三つ目に、市井ふみの妹として市井二胡という登場人物が出てくるのだが、これが明らかにニコを彷彿させられる。ニコとはアンディ・ウォーホルやフェデリコ・フェリーニ、フィリップ・ガレルのインスピレーションを掻き立てたミューズだ。
絵が描けなくなった市井ふみと対比するように二胡がいる。そして対話を通じて、市井ふみの心を動かしていく様子にニコの残像を感じた。
また、二胡とふみが夜な夜なベッドでイチャつくシーンがあるのだが、これは男子必見。あまりに可愛いじゃれあいに鼻血出ること間違いなし。多幸感を得るであろう。今泉監督なんてもん撮っているんだ(褒め言葉)
最後に…
本作は、アイドル映画だと思い観に行くとビックリするだろう。しかし、20代の恋愛観の揺らぎを見事に捉えた傑作であった。是非劇場で挑戦してみてください。
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