おとなの恋の測り方(2016)
un homme à la hauteur(2016)
監督:ローラン・ティラール
出演:ジャン・デュジャルダン、
ヴィルジニー・エフィラ、
セドリック・カーンetc
評価:90点
今、密かにミニシアターで話題となっている作品があります。それが「おとなの恋の測り方」というフランス映画。ブンブンのブログを愛読している方なら分かるとおり、普段は女性向けこてこて恋愛映画なんか観ません。タイトルに「オトナ女子」感があると全力で避けます。
ただ、先日映画友の会というオフ会に参加した際に、「これが面白かったんですよ!」という話を伺いました。というのも、本作は逆身長差カップルの恋愛を描いた話なのだが、「アーティスト」のジャン・デュジャルダン(身長182センチ)をCGで136センチに縮めて撮ったのだとのこと。なんで、わざわざCGで身長を縮める必要があったのか?身長160センチ低身長男子のブンブン、こやつに興味を抱き、観てきました。そしたら、場外ホームラン級の大傑作でしたよ!
「おとなの恋の測り方」あらすじ
弁護士のディアーヌは、離婚した女たらしの夫と職場が一緒なので常に口論が絶えない。そんな彼女はある日、携帯電話をレストランに忘れてきてしまう。親切な人が、その携帯電話を届けてくれることになる。電話で声を聞く限り、イケボで優しくてユーモラスな人のよう。これは新たな恋の予感!と10cmのヒールを履いて待ち合わせ場所にやってきたら…136cmの男性が現れた。最初は戸惑うものの、いつしか恋を深めていき…CGだからこそ見えてくる逆身長差カップルの苦悩
本作は、アルゼンチン映画「Corazón de León」のリメイクとして企画されました。それをローラン・ティラール監督は、なんかアクセントを加えたい!そうだ、カリスマ性の俳優を縮めてみたら面白いのでは?と思い立ち前代未聞の逆身長差映画となりました。ただ、ローラン監督の遊び心がこうも見事に上手くいっているとは思いもよりませんでした。アメリカだったら、パロディコメディによく登場するホンモノの小さい人が使われるでしょう。ただ、それだとどうしてもカリスマ性が出にくくなってしまう。背の高いイケメン俳優のようにスマートに、かつ真面目な演技をしたことがないため、どうしてもコメディ要素120%になっている。しかしながら、既に「アーティスト」で抜群の演技、イカした演技をしているジャン・デュジャルダンが今回演技をしているもんだから、妙に風格があります。画面に映っている時空が歪んだような違和感に惹き込まれます。この手法はアルゼンチン版でも使用されており、「エル・クラン
」や「瞳の奥の秘密」に出演しているギレルモ・フランセーヤが低身長の男をCGで演じている。ただ、「おとなの恋の測り方」の方が、カリスマ性と違和感のバランスが取れているように見えました。(アルゼンチン版はどうしてもCGじゃねと思う非現実的な造型な部分があった。)
まさに、本作の一番凄いところはそこにあり、人々が町中で見かける逆身長差カップルや低身長男子のいる空間の違和感とそれに適応出来ない人々の差別的な目線を効果的に魅せています。それ故に、物語が進むほど低身長男子アレクサンドルの苦悩に涙する。また前半のユーモアが重い重い苦悩の上に立っていることに気づかされ切なくなります。
フランスはシャルリーエブドを始め、風刺画を得意とする国。極端な例を出すことで、逆身長差カップルの大変さを表現していました。
ヒールに注目
本作は邦題に負けない非常に「おとな」な恋愛映画です。というのも、ヒロインがラブコメにしては非常に真面目に恋愛をしているのです。よく映画を観ると、ヴィルジニー・エフィラ扮するディアーヌは、決してヒールを脱ぎません。それも10cmもあるヒールを。アレクサンドルの低身長っぷりと大胆っぷりに驚くんだけれども、「自分はこの男に惚れた!最後まで情事に励むぞ!」と何があってもヒールを脱ぎません。
ちなみにヴィルジニー・エフィラの身長は175cmなので、常時185cm。アレクサンドルとの身長差約50cm。当然ながら、町ゆく人の痛い目線がディアーヌの心に刺さります。特に年配者になればなるほど、「カレシは背が高いイケメンで金持ちが良いよねー」と考えているだけに、いたたまれなくなってくる。好きで自慢したいのに、どうしてもあと一歩踏み出せない。せめて、優しい彼への気遣いでヒールは履き続けようとする姿に熱くなりました。このように、本作は周りの好奇な目に耐えられない苦痛の描き方が非常に良く描かれています。
台詞が粋で良い!
今回、結構フランス語ならではの表現が多いので、字幕では分かりにくい部分がありましたが、脚本が非常に素晴らしいです。「大」と「小」に関する会話を、手を変え品を変え展開していく手数の多さ、そしてイバラ道の末にディアーヌが告白する愛の台詞がその総てを優しく包み込みます。
最後の台詞は、ディアーヌがアレクサンドルに向かってしゃがみながら「Je t’aime, petit ami(愛している 私のカレシ)」という。Je t’aime(ジュテーム)だけなら分かるが、あえて最後にpetit amiと付けているのです。petit amiとはカレシという意味の熟語なのだが、分解してみるとpetit(小さい)+ami(友だち)というようにアレクサンドルそのものを示す言葉となっています。
ディアーヌはアレクサンドルに気を遣うあまりに、身長の話は避けてきた。アレクサンドルの個性である「身長」をタブー視していたのだが、ラストでpetit amiと言うでアレクサンドルの個性も含めて「好きです」とアピールしているのです。告白の台詞として非常に美しい。恋愛関係が出来ていない時に使ったら、破局する言葉である故に非常に熱く心に刺さりました。
日本でも作ろうぜ!
現在、想像以上の大ヒット、特に女性からの熱い支持や共感を集めている「おとなの恋の測り方」ですが、日本でも作れるのではと思いました(調べたら、既に「ラブ★コン」は藤澤恵麻×小池徹平で映画化されてました)。というのも、数年前にNaverまとめで特集されるほど、逆身長差カップルや長身女子を扱った漫画が作られていた時期があります。180cmの女子との恋愛を描いた「ハル×キヨ」や「富士山さんは思春期」、170cm女子のコンプレックスを描いた「Stand Up!」などがあります。ヒロインも、元アイドルで現在は王様のブランチレポーターをしている熊井友理奈(181cm)とか、小6で174cmのモデル夏目璃乃などを採用すれば作れなくない話です(「銀魂」とか「東京喰種」とか作るよりはるかに楽だと思う)。
もちろん、事務所の関係でイケメン俳優が、長身女子と並ぶのがNGだったり、そもそも女子高生のニーズには応えるのが難しい問題こそあれど、個人的には実写化してほしい。そして、「白馬の王子様像はあなたが作ったもの。好きな人がいるのなら周りを気にせず、壁を破壊していこう!」というメッセージを発信していけば、低身長男子や長身女子に関する好奇の目はなくなり、差別のない世の中になるのではと感じました。
本作は、2017ベストテンに入れたい、間違いなく恋愛映画オールタイムベストに入れたい一本でした。
P.S.
パンフレットは720円。舞台となったマルセイユ情報が結構詳しく掲載されています。デザインもオシャレなので買って良かったです。
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