湯を沸かすほどの熱い愛(2016)
監督:中野量太
出演:宮沢りえ、オダギリジョー、杉咲花etc
もくじ
評価:45点
シネフィルにとって、
映画ベストテンを
じっくり決めるこの季節。
今年は邦画豊作の年で、
シネフィル皆が100点クラス
を出す作品が沢山出ている。
恐らく、キネマ旬報ベストテン
邦画1位は、もはや誰も
止められない快進撃を
放つ「この世界の片隅に
」だろう。
そして第2位に滑り込みそうなのが、
今回紹介する「湯を沸かすほどの熱い愛」だ。
予告編を観た限り、ありがちな
病気ものにしか思えず感動の
押しつけ臭がするので毛嫌い
していたのだが、出会う人皆が
「アレを観ろ」と言うではありませんか。
しかも、
ヨコハマ映画祭
2016年日本映画ベストテン2位
ランクイン、監督賞、脚本賞、
助演女優賞の4冠を達成している
ではないか!!
流石に無視できない作品なので、
ヒューマントラストシネマ有楽町で
観てきました。しかし…
「湯を沸かすほどの熱い愛」あらすじ
夫が失踪し銭湯を休業してから1年。学校でいじめられている娘を女で
一人で育てている双葉だったが、
余命2ヶ月と宣告される。
絶望するかと思われたが、
彼女は失踪した夫を探し出し、
銭湯を再開。
そして、余生を充実させるために
奮闘するのだった…
宮沢りえと杉咲花が凄い!
本作を観て、まず誰もが思うのが、
宮沢りえと杉咲花の演技が
神がかって上手いところだ。
余命僅かということを
娘達に悟られないように空元気
を発揮する宮沢りえ、
タイトル通り包容力のある
愛で歪な家族を一つにする
宮沢りえの魅力に
圧倒されます。
また、「トイレのピエタ」で強烈な
インパクトを与えた杉咲花が
母の余生を通じて、
強く立派な女へと変わっていく
過程がこれまた見物。
互いの演技合戦に燃え上がりました。
ただし映画としてヤバくね?
ただし、本作はお話しとして観た際に、
あまりに危険且つとんでもない演出が
されており、シネフィル皆絶賛している
ところ悪いが全然褒められたもんじゃない
作品だと思った。
それについて3つのベクトルで解説していく。
1.設定が死んでいる
原作モノなのでなんとも言えないのだが、
映画を観る限り、銭湯という設定が
全く活かされていなかった。
確かに、銭湯は出てくる。
銭湯の仕事を通じて
歪な家族が一つになる
というのも分かる。
しかし、本作には
「お客」という存在がない。
銭湯とは、昭和の
社交場として機能していた。
当然ながら客同士の
コミュニケーション、
客と店員間での
コミュニケーションが
発生するはずである。
しかし、それが一切ないのだ。
銭湯がただの風景としてしか
存在していないのである。
また本作の家族構成が非常に
複雑で、離婚や人妻の子、
聾唖者といった
設定が幾重にも
折り重なっているのだが、
それが単に後半の
「家族が一つになった。
ヤッタネ!」描写
を盛り上げる為だけに
存在している。
つまり、本作において
キャラクターや設定が
感動のための飾りとしてしか
機能しておらず、折角
面白そうな題材なのに
もったいないこととなっている。
「トイレのピエタ」という作品がある。
(これもヒロインは杉咲花だ)
これは、フリーターの絵描きを
主人公に置き、余命宣告を
受けることで絶望していたところに
一人の女子高生が現れ、
生涯ラストの大団円を
巻き起こすという話。
アーティストになれず
くすぶっている男が、
最後にとある場所で
絵を描き死を迎えることで
感動を与える仕組みなのだが、
どうだろうか、設定に必然性が
あるのに気づいただろうか。
非常に酷似している作品だけに、
「湯を沸かすほどの熱い愛」は
「トイレのピエタ」の劣化盤
に見えるのだ。
2.犯罪に対する罰の軽視
本作はやたらとテンションが高く、
感動感動で押し進めているので、
気づきにくいのだが、
宮沢りえ犯罪を重ねすぎです。
まず、宮沢りえは
夫を見つけるなり、
料理器具で殴りつけ
怪我をさせている。
暴行罪だ。
さらに、
旅先のかに屋さんで、
聾唖者の店員にいきなり
ビンタをかます。
いくらその聾唖者が
夫の元妻だったとしても、
それは暴行罪だ。
そして、自分の母親の家に
置物を投げつけ窓ガラスを
割る器物損壊まで行っている。
しかし、一切宮沢りえは裁かれる
ことなく「いいオカンだったね!」
と終わる…「よかないわ!!」
よくよく考えたら宮沢りえの役、
相当頭おかしい。
娘にかに屋さんへ連れて行き、
たらふく食べさせ、
さて帰ろうかという段階で、
「あの店の店員さん、
実はあんたの実の母親よ。
私はあんたのオカンじゃない!」
と言い、初めて見る店員に
挨拶しにいくまで帰ってくるな
というのは鬼畜過ぎる。
子供にとってはホラー以外の
何物でもないトラウマイベントであるw
3.感動の押しつけ
とにかく、本作は
ラストの銭湯葬式の大団円を
イメージして映画を作っている
イメージがあり、
「感動」を嫌と言うほど押しつけてくる。
病室の外で、家族が
時代遅れな人間ピラミッドを
やり「ここ泣き所ですから!」と
言わんばかりのシーンは正直
全身凍り付きました。
あれだけ、犯罪を犯し、
鬼畜な展開を見せているのに
感動で乗り切ろうとしているあたりが
気持ち悪くブンブンは到底好きには
なれなかった。
最後に:中野監督の今後に期待
とはいえ、監督2作品目にして
こんなカルトでぶっ飛んだ
作品を作り、尚且つ多くの人を
魅了させたのは凄いところ。
役者のコントロールも上手くいっているので、
この中野量太監督は今後バケモノに
進化する可能性は高い。
なので応援したい監督である。
次回作に期待だ。
コメントを残す