“Ç”老人を労りたくなる映画「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(NEBRASKA)

ネブラスカ

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテetc

近年、少子高齢化が進み、
若者にとって老人は目の上のたんこぶである。
先日の大阪都構想も圧倒的老人の意見の反映率で、
若者の中には不満を抱く者もいただろう。
しかし「ネブラスカ」を観ると、
そのような迷惑の産物に対して優しくしたくなる。

何故、白黒か

監督のアレクサンダー・ペインは
「アバウト・シュミット」で描いた
意識高い老人とは真逆の老人を
「ネブラスカ」で描き出した。

認知症気味で、嘘の宝くじ当選結果を信じて
徒歩で遠方の受取所に向かおうとする。
息子が止めようとも、言うことを聞かない。
かといって、父親につきあい冒険に出るも、
拠点地の町で保守派に目をつけられる。

アップリンクがウェブ配信する
情報誌「骰子の眼」の監督
インタビューによると、

「この控え目で飾り気のない物語と、
登場人物たちの人生を描くには、
荒涼として平坦で直接的な
ビジュアル・スタイルがうってつけなんだ。
それに以前からずっと、
モノクロ作品を作りたいと考えていた。
モノクロ映画は真に美しい形式だ。」

と語られていることから、
飾り気のある「アバウト・シュミット」と
真逆の老人像を、
白黒を用いることで効果的に描き出していると言える。

小津っぽい

確かに、親族に邪魔者扱いされ放浪とする
プロットは同じではあるが、
今作は小津安二郎を意識することで、
リアルなユーモラスを演出することが出来ている。
例えば、親戚が集合してテレビを観るシーン。
台詞と台詞の間が非常に長い。
そして、間を使って笑いを演出する。
「お茶漬けの味」での食事シーンさながらの心地よさがこの映画にはあった。

戦後ロードムービー

戦後の白黒ロードムービーは
荒廃や退廃のイメージとして白黒が使われる。
ヴィム・ヴェンダースしかり、
ジム・ジャームッシュしかりだ。

もちろん、上記のように
アレクサンダー・ペイン監督も同様の
使い方をしているが、そこには老人の
ユーモアが沢山含まれていた。
荒涼としたヴィジュアルにもかかわらず、
老人の哀愁を描くのではなく、
親子の友情をコミカルに描いている点非常に明るい作品だ。

例えば、老人が賞金の手紙を
奪われ落ち込んでいるシーン。
白黒の映像が重々しく、
老人の気持ちを表現しているかに見える。
しかし、息子が手紙を探しに行こうと
誘うと目を輝かせる。

こういった露骨に白黒映画の放つ重みから
解放するコメディ手法は、ジム・ジャームッシュの
コメディ映画にはない為新鮮だ。
そして、白黒にすることで一種の
ファンタジーを生み出し、
説教臭さを消していた。
元々、アレクサンダー・ペインは
山田洋次のような人情喜劇の
描き方を極めた監督だったが、
「ネブラスカ」で新境地を開いたと言えよう。
「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」予告編

関連項目

骰子の眼:アレクサンダー・ペイン監督インタビュー

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