サンクスシアター

【 #サンクスシアター 10 】『THE DEPTHS』濱口竜介の深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

濱口竜介映画の面白いところは、会話劇でありながらも映画的ショットを常に意識しているところにある。『親密さ』における第一部から第二部に切り替わるまでのスムーズな動き、『寝ても覚めても』における冒頭のストーカーシーンにおける距離感と丘の横移動を使った心の距離感をリンクさせていくところに魅力がある。クローズアップ一撃必殺なホン・サンスとは違って、同じ会話劇監督であっても映画史の積み重ねから来る手数の多さ、あるいは発展のさせ方に魅力がある。

2021映画

【MUBI】『UPPERCASE PRINT』プロパガンダの皮をひらいてとじて

チャウシェスク政権下で見つかった落書き。自由を求めるメッセージが込められたその落書きを巡って秘密警察は動き始め、若者Mugur Calinescuが殺されてしまう。それを、テレビ番組のようなステージの上で人々が再構築していく。話されることは物騒なことばかりなのに、そこで挿入される映像は子どもが「おかあさんといっしょ」のような空間の中でワイワイ遊んでいたり、経済成長しているアピールをするCM、軍隊や市民による集団行動だったりするのだ。つまり、表面的には国家として成功しているように見えて、その実情は市民の声を踏みにじっている。それをまるで、シールをひらいてとじる感覚で演劇パートとフッテージを交差させることによって辛辣に社会批判してみせるのだ。プロパガンダの再構築によって新たな社会批評の方法を模索している監督にセルゲイ・ロズニツァがいる。彼は『国葬』の中でスターリン時代のプロパガンダを再構築することによって、プロパガンダで封殺されて市民の痛みを強調していたが、『UPPERCASE PRINT』の場合、淡々と喋る役者の演技とプロパガンダが悪魔合体することによって、痛みが継承されていく過程まで描けていた。

サンクスシアター

【 #サンクスシアター 8 】『お嬢ちゃん』美人という仮面に封殺された者

主人公、みのり(萩原みのり)は観光地の甘味処でバイトする美人な大学生。しかしながら、彼女は目の前にある不条理には我慢できず、友人がチンピラに襲われようものならそのチンピラに噛み付く。コンパで、嫌な想いをしているのにそれをひた隠しにしてまたコンパに行こうとしている状況にも物申す。通常でなら、空気の読めない人として人間関係が絶たれて終わるのだが、彼女は「美人」という仮面をつけられているため、どんなに嫌なことを拒もうとしても粘着質に彼女をなだめることでその場に留めようとする。

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【アカデミー賞】『少年の君』アジア映画におけるイジメ描写

『少年の君』は、衝撃的なシーンから始まる。いじめられっ子のフー・シャオディが階段から突き落とされる。校舎から生徒たちがふー・シャオディの姿を見つめる。ある者はスマホでパシャパシャ惨劇を撮る。だが、肝心な死体は観客に提示されない。敢えて提示しないことで、観客の内面にある野次馬根性を引き摺り出す。そして、フー・シャオディの骸に一歩、ニエン(ジョウ・ドンユー)が歩み出ることで、新たな犠牲者を予感させる。

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『DAU. New Man』初心者のための『DAU. Degeneration』

正直、『DAU. New Man』単体であれば非常に面白い作品だ。まさしく若松孝二の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のような理想を抱き、己の肉体を鍛錬する者たちがドンドン腐敗していき組織が破壊されて行く様子が生々しく描かれて行く。ソ連の閉塞感というものを捉えるには十分な作品であり、スキンヘッドの男マキシム(Maksim Martsinkevich)がX-MENに出てきそうな人体実験に励んだり、刑務所のような場所で格闘訓練をしたりする場面は視覚的面白さがある。男性的訓練が女=弱い存在に対して搾取して行く様子もよく描けている。その積み重ねが上手いので、終盤の破壊シーンに説得力が帯びていき、抑圧された世界に対する怒りの再現として傑作になっている。