『チルド』コンビニは生かされるための機械

チルド(2026)

監督:岩崎裕介
出演:染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦、くるま、長島竜也etc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第76回ベルリン国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)を受賞した『チルド』が2026年7月17日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田ほかにて全国公開となる。本作は日本の映画レーベルNOTHING NEWによる作品で、今月開催されるカンヌ国際映画祭にもアニメ映画『我々は宇宙人』を出品しており注目すべきものがある。今回、NOTHING NEWさんのご厚意で一足早く観させていただいたので試写レビューをアップしていく。

『チルド』あらすじ

染谷将太が主演を務め、コンビニを舞台に描くホラー作品。コンビニというルーティン化された社会の中で起こった小さな歪みをきっかけに、外の世界も終わりに向かっていく姿を描く。第76回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞した。

東京の片隅にあるコンビニ、エニーマート倉冨町7丁目店の副店長・堺は、学生時代に働き始めて以来、気づけば20代のほとんどをこの店で過ごしてきた。レジ打ちに品出し、廃棄処理。そしてスマホゲームにマッチングアプリ。毎日はただ同じことを繰り返して過ぎていく。オーナーはコンビニというシステムの中でわずかな乱れも許さず店を支配しているが、そこへ新人アルバイトの小河が現れたことで、店の均衡は静かに崩れ始めていく。

ショートフィルム集「NN4444」や中編ホラー「〇〇式」を手がけて注目を集める映画レーベル「NOTHING NEW」が初めて送り出した長編作品。監督は、「NN4444」にも収められた短編「VOID」を手がけ、これが初長編作品となった岩崎裕介。主人公のコンビニ副店長・堺を染谷が演じ、新人アルバイト・小河役を唐田えりか、オーナー役を西村まさ彦、コンビニ店員・室井役をお笑いコンビ「令和ロマン」のくるまが務めた。

映画.comより引用

コンビニは生かされるための機械

本作は黒沢清映画を彷彿とさせる現実から外れてしまった人の異様さを捉えながらも彼の作品以上に生々しくリアルな会話の噛み合わなさの持続で背筋を凍り付かせるホラー映画となっている。コンビニ《エニーマート》で副店長をしている堺。同僚や客はどこか壊れてしまった人ばかりで自分自身も、未来なき単調な生活に諦観しスイッチの切れたロボットのように虚無を刻んでいる。映画の前半は、厭な人間の間合いの品評会となっており、現実にもある気持ち悪い展開にゾクゾクとさせられる。

たとえば、サラリーマンが「レジ袋要るって言った?」と戻ってくる場面。冷たい態度で相手の意図を汲み取らないようにしつつその執拗さから「払い戻しします」と言うと「いや、いい」と立ち去る。同僚の男は引きつった笑みを浮かべながらも言葉の一手を間違えると怖い形相を浮かべる。その当たり判定はわからない。仕事中にもかかわらず声優をやっていると音源を聴かせられたりする。転調も淡々とした口調で組織のルールを詠唱するだけ、時折壊れたように単語を復唱する。機能不全になりながらも社会のインフラとしてかろうじて機能している様を前に《コンビニは生かされるための機械》なのかもしれないと思わずにはいられない。このような環境に身を置いているので、堺自体も人間の間合いが壊れてしまっている。ここが重要なポイントである。コンビニ外のコミュニティ、友人同士との会話になるのだが、虚無に生きているので面白い話はできないし、勿体ぶってようやく口を開いたかと思えば、間が悪く自分の持っている会話のボールはするりと手から落ちてしまっている。

このような絶妙な会話の噛み合わなささや壊れた人間関係の陰湿さは文学向きな内容であり、村田沙耶香「コンビニ人間」や坂本湾「BOXBOXBOXBOX」といった例があるが、岩崎裕介は長編デビュー作にして見事視覚言語に落とし込んだといえよう。後半のある展開も刺激的であり、今後の活躍に期待である。

2026年7月17日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田ほかにて全国公開。