【第78回ベルリン国際映画祭】『NINA ROZA』棄てた故郷で我思う

NINA ROZA(2026)

監督:Geneviève Dulude-De Celles
出演:ガリン・ストエフ、Ekaterina Stanina、Sofia Stanina、キアラ・カゼッリetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第76回ベルリン国際映画祭で脚本賞を受賞した『NINA ROZA』を観た。割と日本人で観た人の評判が悪く一抹の不安を抱いていたのだが、杞憂であった。

『NINA ROZA』あらすじ

Mihail left Bulgaria in the 1990s after the death of his wife and raised his young daughter, Roza, alone in Montreal. Far from his homeland, he established himself as a specialist in French and contemporary art. Now, he is commissioned by a collector to authenticate the work of an eight-year-old girl, Nina, who is living in a Bulgarian village and whose paintings have gone viral online. Mihail hesitates but eventually agrees to undertake the journey. Meeting Nina shakes him deeply. The disarmingly mature child reminds him of Roza at the same age. During his stay in Bulgaria, he gradually makes his peace with the ghosts of his past while trying to unravel the mystery behind Nina: is she truly the author of her work? Has someone helped her? What gives him the right to disrupt her happy life? Somewhere between the past and the present, the tangible and the symbolic, Mihail’s journey becomes a cathartic one which highlights the intricate relationships between life, art and human beings. Sometimes, the journey matters more than the destination.
訳:ミハイルは1990年代、妻の死後ブルガリアを離れ、モントリオールで幼い娘ローザを一人で育てました。故郷を遠く離れた地で、彼はフランス美術と現代美術の専門家としての地位を確立しました。そして今、コレクターから依頼を受け、ブルガリアの村に住む8歳の少女ニーナの作品の真贋鑑定を依頼されます。ニーナの絵画はインターネット上で話題になっています。ミハイルは当初躊躇しましたが、最終的にこの旅を引き受けます。ニーナとの出会いは、彼を深く揺さぶります。彼女は人を惹きつけるほど成熟しており、同い年のローザを彷彿とさせます。ブルガリア滞在中、彼は過去の亡霊と徐々に和解し、ニーナに隠された謎を解き明かそうとします。彼女は本当に作品の作者なのでしょうか?誰かが彼女を助けたのでしょうか?なぜ彼は彼女の幸せな生活を邪魔する権利があるのでしょうか?過去と現在、具体的なものと象徴的なものの狭間で、ミハイルの旅は、人生、芸術、そして人間の複雑な関係性を浮き彫りにする、カタルシスに満ちたものとなります。時には、目的地よりも旅そのものの方が重要なこともあります。

※第76回ベルリン国際映画祭より引用

棄てた故郷で我思う

ブルガリアを離れカナダ・モントリオールで美術の専門家として働く男の前に一件の調査依頼が届く。ブルガリアの田舎町で天才少女が現れたらしい。インターネット上でバズっている少女の絵が本物か、あるいは他の人によるヤラせなのかを判断してほしいとのこと。最初こそ乗り気でなかったのだが、ブルガリアへ向かうこととなる彼。村へ到着するも、田舎者の僻みだろうか「ソフィアで勉強したってねぇ」と嫌味を言われる。やれやれといった面持ちで少女と対峙する。

まず、本作において少女の描く絵のクオリティが良い。絶妙にバズリそうな作品なのだ。ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングをパステルカラーに寄せたようなタッチで美しい。美術館に展示したらSNS映えを求める人たちでごった返しそうなものである。この手の作品は「誰でも描けそう」といった印象を抱かせがちなので、少女ニーナが本当に描いたのか、村興しのための戦略ででっち上げられたものなのか、映像だけだとわからないものがある。

男は少女と対峙する。少女は真っすぐな瞳で詩的なことを語る。これはホンモノなのではと思う。そこに自分の人生が重なり葛藤していくのだ。ミハイルは、ブルガリアを棄ててカナダで成功した。だが、その人生が果たして良かったのかと考える。作品の真贋の判定は、少女の人生を規定するものである。もしホンモノだとして、少女はどのような人生を歩むのだろうか。ミハイルは心象世界のように美と翳りが混ざり合うブルガリアの地を孤独に歩みながら我思うのである。

人生とは一筋縄ではいかない。正解のない中で自問自答し、矛盾を抱えながら、曖昧さの中に生きる。成功した人生の再現の道を他者に与えることは正解なのか葛藤し続ける様を圧倒的な風景の中で描き込む。確かにベルリン国際映画祭で脚本賞を受賞するのも納得であった。Geneviève Dulude-De Celles監督に注目である。