ロマンティック・キラー(2025)
監督:英勉
出演:上白石萌歌、高橋恭平、木村柾哉、中島颯太etc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
英勉監督は過小評価されている大衆娯楽映画監督だと思っている。彼は、通俗でありながらジェリー・ルイスやフランク・タシュリン映画のように豊かな映画の運動をスクリーンに焼き付け、ファレリー兄弟の作品のように既存の価値観を笑いに包みながら批判しているように思えている。また、無理難題なプロジェクトを成功させた実績の持ち主でもあり、「おそ松さん」を9人組の男性アイドルグループSnow Manを主演に実写化する難題を、全員が主人公になる瞬間を与えながら2時間に収めきった離れ業をやってのけた。
『ロマンティック・キラー』あらすじ
上白石萌歌、高橋恭平(なにわ男子)、木村柾哉(INI)、中島颯太(FANTASTICS)の共演で、2022年にアニメ化もされた百世渡原作の同名漫画を実写映画化したコメディ。
恋愛にまったく興味のない女子高生・星野杏子の前に、魔法使いのリリが現れる。リリの住む魔法界は人間が恋をした時に生まれる「恋愛エネルギー」を糧としているが、杏子が恋をしないため魔法界は大変なことになっているという。リリは杏子に1カ月以内に恋をしてもらうと宣言し、杏子の大好きなゲーム・チョコ・猫を魔法で取り上げてしまう。その日からリリの魔法により、かっこいい男子たちが次元を超えて杏子の周囲に押し寄せるようになる。やがて杏子は、クールな転校生・香月司、野球部エースの幼なじみ・速水純太、某国の御曹司・小金井聖という3人の同級生と距離を縮めていく。次々と襲いかかってくる恋愛トラップを回避して、平穏な生活を取り戻すべく奮闘する杏子だったが……。
上白石萌歌が星野杏子、高橋恭平が香月司、木村柾哉が速水純太、中島颯太が小金井聖を演じ、謎の兵士役で與那城奨(JO1)、謎のSAT役で藤原丈一郎(なにわ男子)、謎の刀剣役で佐藤大樹(EXILE、FANTASTICS)が共演。監督は「ヒロイン失格」「東京リベンジャーズ」の英勉。
社会規範の呪い「恋愛至上主義」に中指を立てよ、恋愛を脱構築せよ
そんな彼が2025年の末に放った『ロマンティック・キラー』は、現代におけるロマンポルノ的、映画の実験室である「青春キラキラ映画」に電撃を走らせる程の一本であった。
まず、本作は漫画の映画化であり、アニメ化もされているわけだが、このテーマをポップにメルヘンに捧腹絶倒なギャグで包み込み、しっかり劇場へ訪れた女学生のツボを押さえて爆笑と興奮をもたらしていたことに感動する。本作は、アロマンティックというよりかは私のように趣味を優先するが故に恋愛を邪魔だと考えている人の話である。現実世界では、様々な方向から呪いのように社会規範としての「恋愛至上主義」が押し付けられる。その様子を寓話として描いている。モテモテだけれども学校が終われば家に帰りゲームに熱中している星野杏子の前に魔法使いが現れ、「キミが恋をしないと魔法界が終わる」と言われ、愛猫はクマムシに変えられてしまう。次々と、あらゆる次元からイケメンが送り込まれ、デウス・エクス・マキナが如く都合よく吊り橋効果、恋愛のレールが敷かれる中、彼女は必死の抵抗をみせる。しかし、数多のイケメンのうち3名がメインストーリーとして組み込まれ、学園祭エピソードが始まってしまう。冒用で、『ニュー・シネマ・パラダイス』における銀幕接吻連射シーンを応用し、『また逢う日まで』からアニメ版の『君の名は。』へ繋げ、その合間に『スピード』『愛の不時着』『刀剣乱舞』にコナン、妖怪ウォッチといったあらゆる作品のクリシェをねじ込まれていく。社会に漂う恋愛の要素がいかに暴力的なノイズかを執拗に描いていくのだ。
そして青春キラキラ映画が現代のロマンポルノ的立場であり、常に最先端の発想や表現を模索する中、コンプライアンスの関係から2020年代には死滅したであろう「壁ドン」が、批評的アクションとして本作で用いられている点には注目である。多くのイケメンが壁ドンをしながら杏子へ襲い掛かるのを華麗に回避し撃退するのである。そのプロセスにはマンスプレイングする眼鏡野郎を叩き潰す描写まである。ジェンダー論の映画として今年観たセバスティアン・レリオ監督の『波』に匹敵する程に、パワフルな表象だといえよう。
そして、本作が大衆娯楽映画である以上、流石に恋愛or友情エンドだと思い、実際その方向には進むものの、実はそこに罠が仕掛けられており、恋愛映画を脱構築するものとなっていた。
英勉監督、やはり凄い。
彼なら、たとえ実写化が圧倒的に向いていない「干物妹!うまるちゃん」を映画化する羽目になったとしても丸く収めてしまうことであろう。
※映画.comより画像引用












