【第38回東京国際映画祭】『マザー』後継者「わたし、ムリかも」

マザー(2025)
Mother

監督:テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
出演:ノオミ・ラパス、シルヴィア・フークス、ニコラ・リスタノフスキetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第38回東京国際映画祭に北マケドニアの注目監督テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ初英語作品『マザー』が出品され、最優秀芸術貢献賞を受賞した。本作もパワフルな一本であった。

『マザー』あらすじ

1948年、インドのカルカッタを舞台に、ロレト修道女会を離れ、自らの修道会を設立しようとしていた時代のマザー・テレサの決定的な一週間を描く。自らの後継者として指名しようとしていた修道女が妊娠し、中絶を望んでいることを知って、現実と信仰のはざまで葛藤し、精神的に追い込まれてゆくテレサを『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09)のノオミ・ラパスが熱演。聖人として知られるテレサの人間的側面に焦点が当てられており、いわゆる偉人の伝記ものとは一線を画する作品。現在のフェミニスト的視点からテレサを見直した作品とも言える。テレサの出生地である北マケドニアを代表する映画監督、テオナ・ストゥルガル・ミテフスカが初めて手掛けた英語映画。

※第38回東京国際映画祭サイトより引用

後継者「わたし、ムリかも」

『ペトルーニャに祝福を』『The Happiest Man in the World』では、男性もしくは男性社会を前に不満を抱く女性像を浮き彫りにした作品であった。これはQ&Aで監督自身、女性は社会を前にフラストレーションを抱いているんだと主張していることからも明白である。しかし、今回はスタイルを変化させ、男性の側面は抑え、女性コミュニティを主軸とした内容となっている。

修道院を去るため、後継者に引継ぎをしようとするマザー・テレサであったが、その後継者が妊娠をしており、しかも中絶をしたいと考えているため、最後の業務として彼女の問題に対応するといった内容。女性の受難は今も続いていることを象徴するように、音楽は1940年代には存在しないようなヘビーメタル調の音楽が起用され、ラストにインドの町を歩くマザー・テレサの横でスマホをいじっている少年の姿が混入する演出となっている。ブリュノ・デュモン『ジャネット』に近いアプローチが採用されているのだ。

マザー・テレサは近年、そこまで聖人ではなかった説が知られているが、本作はフラットな立場で神聖化されたマザー・テレサとも、それがひっぺ剥されて露悪に消費されるマザー・テレサとも異なる人間としての彼女を捉えている。だからタイトルの『マザー』には、マザーになるか否かの宙吊り、それこそもう一人の修道女のマザーであることを破棄しようとする側面も含めたものとなっている。にもかかわらず、Q&Aで外国人おじが「本作のタイトルは『サクリファイス』にした方がよいのでは?」と失礼極まりない質問をしていて、劇場が凍り付いていた。監督は言葉を選びながら、静かに怒りを込めて「女性と犠牲を安易に結びつけないでほしい」と語っていた。