ハウス・オブ・ダイナマイト(2025)
A House of Dynamite
監督:キャスリン・ビグロー
出演:イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソン、ガブリエル・バッソ、ジャレッド・ハリスetc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出されたキャスリン・ビグロー監督新作『ハウス・オブ・ダイナマイト』がNetflixにて配信されたので観た。そこまで期待はしていなかったのだが、現代にアップデートされた『未知への飛行』としての理論の堅さ、そして純粋なアメリカ映画としての風格を兼ね揃えた良作であった。
『ハウス・オブ・ダイナマイト』あらすじ
女性監督として初めてアカデミー監督賞を受賞した「ハート・ロッカー」や、アカデミー賞5部門にノミネートされた「ゼロ・ダーク・サーティ」で知られるキャスリン・ビグローが手がけたポリティカルスリラー。
ごくありふれた一日になるはずだったある日、出所不明の一発のミサイルが突然アメリカに向けて発射される。アメリカに壊滅的な打撃を与える可能性を秘めたそのミサイルは、誰が仕組み、どこから放たれたのか。ホワイトハウスをはじめとした米国政府は混乱に陥り、タイムリミットが迫る中で、どのように対処すべきか議論が巻き起こる。
「デトロイト」以来8年ぶりとなるキャスリン・ビグロー監督作。イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソンを筆頭に、ガブリエル・バッソ、ジャレッド・ハリス、トレイシー・レッツ、アンソニー・ラモス、モーゼス・イングラム、ジョナ・ハウアー=キング、グレタ・リー、ジェイソン・クラークら豪華キャストが集結した。脚本は「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」やNetflixドラマ「ゼロデイ」を手がけたノア・オッペンハイム。撮影は「ハート・ロッカー」「デトロイト」のバリー・アクロイド、音楽は「西部戦線異常なし」「教皇選挙」のフォルカー・ベルテルマンが担当。2025年・第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Netflixで2025年10月24日から配信。それに先立つ10月10日から一部劇場で公開。
神の目を持つ者の不安と戦い
インターネットが発達し、誰でもリアルタイムで遠距離と繋がれる時代。ディスプレイは拡張された眼として情報を提供し、人々はその膨大な情報を即座に分析する。目視し難き対象であっても、拡張された眼を通じて伝達された予兆に葛藤する。キャスリン・ビグロー『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、ほとんどの場面においてディスプレイが映り込んでいる。監視室に並ぶ膨大なモニタ。ひとつのモニタされもWeb会議画面によってPCからスマートフォンといったあらゆるデバイスの構造をそのままに取り込み、リアルタイムに作戦が遂行される。
従来、ディスプレイと通信を使った時空間を超えたやり取りは限られた職業の人、あるいは限られた場所でのみ可能な特権的事象であった。映画自体も、ゴダールを始めとするシネアストが異なる次元のイメージを結合することでナラティブやセオリーを提示していったのだが、今や全人類が時間の魔術師として時空間を操りながら葛藤し、己の役割を全うしようとする。
本作はたった20分の出来事を複数の側面で捉えることで2時間の物語へと落とし込んでいる。ワンラインの時間が多層的に折り重なっている。そして有事に対しリアルタイムで当事者として関係する人物の範囲の広さを強調することによって『未知への飛行』といった古典的映画とは異なる質感を持った緊張感を醸し出すことに成功している。
また、本作はフレデリック・ワイズマン『ミサイル』の延長線として観ることにより味わい深いものとなる。かつて、ワイズマンは大陸弾道ミサイル発射基地のオンボーディングプログラムに密着したドキュメンタリー『ミサイル』を制作した。演習初日にして教官は次のように語る。
「配属されるずっと前に覚悟を決めておく必要がある。なぜならば、あなたが配属された初日にミサイル発射の決断を迫られる可能性があるからだ。」
研修生は己の役割を疑うことなく真摯に演習に取り組む。迷いのない人間が育成されるプロセスを我々は目撃する。そして、アメリカ映画はヒーローものを始めとし、自らに役割があり、その役割を全うしようとする物語が揺蕩う傾向がある。『ハウス・オブ・ダイナマイト』も例に漏れず、有事に直面し、各々が役割を全うしようとする中で生じる葛藤をストレートに描いているため、アメリカ映画としての風格をも兼ね揃えた作品だったといえる。
しかし、一方で本作はミステリーではないため重複する話を3層に重ねたところで冗長さが生まれてしまう欠点を抱えている。結局、第一幕の緊迫感を克服することなく竜頭蛇尾な着弾となってしまったところは悔やまれる。
※映画.comより画像引用












