ルート 17 の遭難者たち(2001)
Les naufragés de la D17
監督:リュック・ムレ
出演:パトリック・ブシテー、Iliana Lolic、サビーヌ・オードパン、マチュー・アマルリックetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
日仏学院にて開催されている第6回映画批評月間にてリュック・ムレ『ルート17の遭難者たち』を観てきた。『密輸業者たち』『ビリー・ザ・キッドの冒険』は既に鑑賞済みで、海のジャック・ロジエに対し山のリュック・ムレといった感じでゆるいドラマながらエクストリームな旅路を描いているイメージが強かった。本作もおおむねそうなのだが、政治色が強く、その土地勘がないと観客も遭難者となるようなタイプの一本であった。
『ルート 17 の遭難者たち』あらすじ
湾岸戦争中、カーラリーのチャンピオンとその若い副ドライバーは、アルプ゠ド゠オートプロヴァンスの人里離れた道で立ち往生する。そこで彼らは、宇宙物理学者、羊飼い、兵士たちと出会い、一見したところ平和な場所を発見するのだが…。エルンスト・ルビッチの『山猫リュシカ』やセシル・B・デミルの『昨日への道』にインスパイアされたムレは、限界ぎりぎりの奇妙な主人公たちの対立と、激化する湾岸戦争の間に大胆な平行線を描く。
※第6回映画批評月間チラシより引用
湾岸戦争形而上カリカチュア
テレビドキュメンタリーのような牧歌的で淡々とした語りでフランス山間部について解説される。その中で、カーラリーの練習だろうか、ヘアピンカーブの練習に勤しむレーサーへとフォーカスがあたる。しかし、道で立ち往生してしまい、相方が助けを求めている間、男は車の中で待ち続ける。
この山では軍人、撮影クルー、動物といった個性的な群、もしくは個の営みが行われており、立ち往生するレーサーは停滞の中で日常では交わらないであろう存在と交わる。それは車の外側にある複数の群/個同士でも発生する。
本作は荒唐無稽なコメディ映画であり、まるで新聞の四コマ漫画のようなカット割りでギャグが挿入されていく。だが、そのネタは脈絡があるようでないような宙吊りに晒されており、物理法則を無視した瞬間移動が頻発する。ギャグのアクションだけが散りばめられ、プロセスが曖昧なものとなっている。
この映画の軸には湾岸戦争があり、当時の政治情勢を形而上から風刺しているため、2000年頃の空気感がわからないと辛いところはある。たとえば、軍人が論理的にミッションを遂行しているように思えて、フレンドリーファイヤーを引き起こしていたり、日本人の正体を誤読したり、フセイン似の監督にひざまずく展開はシャルリー・エブドの風刺画が実写になったようなものと捉えることができる。
ただ、このようなハイコンテクストな内容でありながら、車を取り囲む者の構図のおかしさ、燃ゆるレーシングカーの様になるショットには惹き込まれるものがある。