『ファニーとアレクサンデル』ホラー映画のスペシャリスト:イングマール・ベルイマン

ファニーとアレクサンデル(1982)
FANNY OCH ALEXANDER

監督:イングマール・ベルイマン
出演:グン・ヴォールグレーン、エヴァ・フレーリング、アラン・エドワール、ハリエット・アンデルセン、アンナ・ベルイマンetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

note創作大賞2025企画記事「【上映時間3時間以上】超長尺映画100本を代わりに観る」で『ファニーとアレクサンデル』を再鑑賞した。

『ファニーとアレクサンデル』あらすじ

スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが自身の故郷である地方都市ウプサラを舞台に撮りあげた自伝的作品で、劇場を営む一族の2年間を2人の孫の目を通して豪華絢爛に描いた全5章構成の群像ドラマ。1907年のクリスマスイブ。少年アレクサンデルと妹のファニーは、劇場主で俳優の父オスカル・エクダールや女優の母エミリーと共に毎年恒例のキリスト降誕劇を上演し、クリスマスを盛大に祝う。ところがその年明けにオスカルが舞台のリハーサル中に倒れ、そのまま帰らぬ人に。夫を亡くしたエミリーは、相談に乗ってくれたベルゲルス主教と再婚することになるが……。第56回アカデミー賞で外国語映画賞など4部門を受賞したほか数々の映画賞に輝いた。1985年に日本初公開。2018年「ベルイマン生誕100年映画祭」(18年7月~、YEBISU GARDEN CINEMAほか)では、全5章・5時間11分のオリジナル全長版でリバイバル上映。

映画.comより引用

ホラー映画のスペシャリスト:イングマール・ベルイマン

イングマール・ベルイマンはアート映画の巨匠のイメージが強いのだが、ホラー映画の巨匠でもある。実際にウェス・クレイヴン監督が『処女の泉』をベースとし『鮮血の美学』を制作したことからも明らかであり、ホラー映画にも影響を与えている。彼の撮る恐怖はハリウッドとも日本とも異なる質感があり、『ファニーとアレクサンデル』はそれを紐解く手掛かりになるであろう。

少年が部屋の片隅で眼差しを向ける。するとガタガタと空間が揺れ始める。彫刻は動き始め手招く。別の場面では、空間を隔てる仕切りの奥から絶叫が響き渡る中、子どもたちが静かにその叫びの方へと向かっていく。至近距離で罵声を浴びせられるショットが唐突に飛び込む。イングマール・ベルイマンは心理的不安のイメージを唐突に挿入することで、深層心理に広がる不安をホラーとして演出していることがわかる。

『ファニーとアレクサンデル』はカラーになったことで怖さがパワーアップしている。たとえば、火だるまになる人のイメージがフィルムの粗い質感で提示される場面があるのだが、これは『仮面/ペルソナ』におけるティック・クアン・ドックの焼身自殺映像を挿入することによる心理的不安を発展させたような痕跡がある。また、章の区切りには真っ赤な背景の中でエンドロールが流されるのだが、この区切りが訪れる瞬間が突然であるがために、脳天を殴られたかのような怖さを抱く。通常、ホラー映画における恐怖は仄暗い空間で発生するのだが、ベルイマンの場合、鮮やかな色彩の中で恐怖を浮かび上がらせており、ホラー映画界における独特な立ち位置を確保しているのである。