『ラ・コシーナ/厨房』色彩を失った人種のサラダボウルに色を与えると団子になる

ラ・コシーナ/厨房(2024)
La Cocina

監督:アロンソ・ルイスパラシオス
出演:ラウル・ブリオネス、ルーニー・マーラ、アンナ・ディアス、ローラ・ゴメスetc

評価:70点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

ついにメキシコの異才アロンソ・ルイスパラシオス監督作が日本で劇場公開される。アロンソ・ルイスパラシオス監督はベルリン国際映画祭の常連であり、本作以外は何かしらの賞を獲っている強者だ。日本では、ラテンビート映画祭やNetflix止まりだった監督ではあるが、ルーニー・マーラが出演しているためか、遂に一般公開が決まり嬉しいばかりである。

『ラ・コシーナ/厨房』あらすじ

スタッフの多くが移民で構成されたニューヨークの観光客向け大型レストランで織り成される人間関係を、ユーモラスかつ痛烈に描いたドラマ。イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーによる1959年初演の戯曲「調理場」を原作に、「コップ・ムービー」などで知られるメキシコ出身のアロンソ・ルイスパラシオスが監督・脚本を手がけ、まぶしく先進的なニューヨークの街とアメリカンドリームを求めて滞在する移民たちの姿を対比させながら、ほぼ全編モノクロ映像でスタイリッシュに描き出した。

ニューヨークにある大型レストラン「ザ・グリル」の厨房で、いつも通りの忙しい朝が始まった。そんな中、前日の売上金の一部が消えたことが判明し、従業員全員に盗難の疑いがかけられる。さらに新たなトラブルが次々と発生し、料理人やウェイトレスたちのストレスはピークを迎え、厨房はカオスと化す。

「ザ・グリル」の料理人であるメキシコ移民の主人公ペドロを「コップ・ムービー」にも出演したラウル・ブリオネス、彼の恋人で秘密を抱えるアメリカ人ウェイトレスのジュリアを「キャロル」のルーニー・マーラが演じた。2024年・第74回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

色彩を失った人種のサラダボウルに色を与えると団子になる

本作は『逆転のトライアングル』で描かれていたあまりにも表層的過ぎる階層間の断絶を掘り下げていったような内容である。NYにある観光客向けレストランで働く移民たちを描いている。観光客からすれば厨房で働く人は「スタッフ」と群として捉えてしまうが、スタッフ個々にもバックグランドがある。この構図を象徴するように白黒で描いており、黒人も白人も等価な存在として描かれている。だが、カメラは仕事中にこっそり薬を摂取する存在や人生に行き詰まりを感じている瞬間を捉え続けている。

本作が興味深いのは途中で2度大きく空間の色彩が変わる点にある。アロンソ・ルイスパラシオス監督はジャンル横断を得意としており、『グエロス』では行き詰まりを見せる青春にロードムービーの構造を当てはめつつ、そこに停滞をを仕込んでいた。『Museo』ではジャン=ピエール・メルヴィル的犯罪劇からロードムービーへと転がる。『コップ・ムービー』は警察24時的な話をドキュメンタリー/フィクションの反復横跳びでメキシコ警察事情を解体していった。今回は、色彩変更をメインとして「スタッフ」という群と個の関係を紐解いていくのである。我々が何気なく匿名的な存在として見てしまっているものへアテンションを向けるためにスローモーションも効果的に使われており、『逆転のトライアングル』に足りなかった要素が補えた一本であった。

※映画.comより画像引用