トラップ(2024)
Trap
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:ジョシュ・ハートネット、アリエル・ドノヒュー、サレカ・シャマラン、ヘイリー・ミルズ、アリソン・ピル、マーニー・マクフェイルetc
評価:100点
ちょうど、東京国際映画祭シーズンの時に公開され、見事に観逃し、カイエ・デュ・シネマベストに選出され公開したM・ナイト・シャマラン新作『トラップ』を観た
カイエ・デュ・シネマ本誌で、票を確認したのだが、19人中本作を入れているのは5名と意外と少ない。ミゲル・ゴメス『Grand Tour』も5名がベストに入れていたのだが、
『トラップ』
1位1人
4位1人
5位2人
6位1人
『Grand Tour』
2位1人
3位1人
8位2人
10位1人
と微妙に『トラップ』の方が平均順位が高く滑り込んだといったようだ。2024年はフランスも映画が豊作だったようでマシュー・ランキン『ユニバーサル・ランゲージ』、バス・ドゥヴォス『Here』、モハマド・ラスロフ『聖なるイチジクの種』などもある程度選んでいる人はいたが落選となっている。
閑話休題、『トラップ』はいわゆる修羅場映画である。修羅場映画はギミックのために人間が動く傾向があるのでツッコミどころを有する傾向があるのだが、今回のシャマランは「本気のツッコミどころを魅せてやる」と言わんばかりのイカれた内容となっており、その癖、サスペンスとしてのルックが凄まじい大傑作となっており、情緒がかき乱されたのであった。
M・ナイト・シャマランが監督・脚本を手がけるサスペンススリラー。一見、愛情深い父親でありながら、実は凶悪な殺人鬼だという男を追い詰めるべく、警察が巨大ライブ会場に罠を仕掛ける。
クーパーは溺愛する娘ライリーのため、彼女が夢中になっている世界的歌手レディ・レイブンが出演するアリーナライブのプラチナチケットを手に入れる。クーパーとともに会場に到着したライリーは最高の席に大感激の様子だったが、クーパーはある異変に気づく。会場には異常な数の監視カメラが設置され、警察官たちが会場内外に続々と集まっているのだ。クーパーは口の軽いスタッフから、指名手配中の切り裂き魔についてのタレコミがあり、警察がライブというトラップを仕組んだという情報を聞き出す。しかし優しい父親にしか見えないクーパーこそが、その残忍な殺人鬼だった。
「パール・ハーバー」「オッペンハイマー」のジョシュ・ハートネットがクーパーを演じ、「女神の見えざる手」のアリソン・ピルが共演。
M・ナイト・シャマランが監督・脚本を手がけるサスペンススリラー。一見、愛情深い父親でありながら、実は凶悪な殺人鬼だという男を追い詰めるべく、警察が巨大ライブ会場に罠を仕掛ける。
クーパーは溺愛する娘ライリーのため、彼女が夢中になっている世界的歌手レディ・レイブンが出演するアリーナライブのプラチナチケットを手に入れる。クーパーとともに会場に到着したライリーは最高の席に大感激の様子だったが、クーパーはある異変に気づく。会場には異常な数の監視カメラが設置され、警察官たちが会場内外に続々と集まっているのだ。クーパーは口の軽いスタッフから、指名手配中の切り裂き魔についてのタレコミがあり、警察がライブというトラップを仕組んだという情報を聞き出す。しかし優しい父親にしか見えないクーパーこそが、その残忍な殺人鬼だった。
「パール・ハーバー」「オッペンハイマー」のジョシュ・ハートネットがクーパーを演じ、「女神の見えざる手」のアリソン・ピルが共演。
※映画.comより画像
ツッコミ仕掛けのスペシャリスト、M・ナイト・シャマラン
本作は、優しき父親が娘を連れて世界的歌手レディ・レイブンのライブにやってくるところから始まる。娘はどうやら学校でイジメに遭っているのだろうか、人間関係が芳しくないようだ。そんな彼女を励まそうと、ライブ体験を盛り上げようとしている。一方で、父親はふたつの点でソワソワしている。ひとつ目は厳戒態勢となっている警備、ふたつ目は娘が揉めている同級生のオカンの存在である。
この父親クーパーは殺人鬼であり、現在、男を監禁中。『SAW』みたいな状況となっている。だが、警察の罠によってこのライブ会場を包囲されているのだ。娘に悟られず、脱出しないといけない。そんな中、学校での厭なことを忘れさせるためにライブへ連れて来たのに、敵のオカンとエンカウントし、親同士の喧嘩が勃発しそうになっている。娘をこのオカンや同級生から遠ざける必要があるのだ。フィクション的設定と現実的設定が折り重なりながら、サイコパスパパが奮闘するわけである。
このユニークな設定に、異常な空間が覆いつくす。ライブが始まって早々、クーパーはトイレへ行くのだが、何故か人口密度が高いのだ。男たちが無表情で尿を足す。個室も満室近い状況となっている。外へ出ると、警察も多いのだが、観客もメガ密な状態となっており、物販、コンセッションがごった返しているのだ。確かに、ライブ後に物販が混雑するからツレに買いに行かせるみたいなことはあるだろうけれども、もはや単独ライブではなくフェスなんじゃないかと思うほどに、ヒトがライブ中にロビーへ繰り出すのである。あれだけ、レディ・レイブンのファンである娘もちょいちょい、ロビーに出始めて、どうかしているライブ会場となっているのだ。
そんな中でゲーム「HITMAN」さながら、クーパーは変装し、アイテムを集めながら突破口を探る。物販のおっちゃんを口説き落とし、倉庫へ一緒に行ってみたり、楽屋へ侵入しようと試みたりするのだ。しかし、あと少しのところで警察に見つかり、職務質問。たまたま持っていたアイテムを使って緊急回避をする。この綱渡りに興奮させられる。
たとえば、コンセッションのフライドポテト揚げ機に瓶を混入させて、爆破陽動作戦を成功させ、屋上へと上がる。すると警察が現れ、「カードを見せろ、貰わなかったのか?」と聞かれる。すました顔で、盗んだエプロンのポケットを探り、財布からカードを出す。クーパーが財布を凝視しているショットが差し込まれ、カードが入っていた反対側には身分証が入っている。つまり、一歩間違えればこの身分証から正体がバレる危険性があったことが示唆される。
別の場面では、楽屋の方へ侵入すると警察の群れにぶつかる。全員クーパーに背を向けている。クーパーはこともあろうことか、白昼堂々この群れに溶け込み、警察にコーヒー用の砂糖を提供、ドーナツをオススメする余裕をかましながら確実にトランシーバーを強奪することに成功する。
映画自体は、現実離れした設定ながらも、タイトなショットを決め続けていくので感動する。しかも、本作は半分過ぎで驚くような展開を迎え、制御不能な混沌となっていく。第二部での空間の使い方は『ノック 終末の訪問者』で手応えを感じた小部屋を使ったギミックが用いられておりこれまた面白い。
そして、何よりも本作が一番イカれているのは、レディ・レイブン役を実の娘が演じているところにある。M・ナイト・シャマランの娘サレカ・シャマランはシンガーソングライターだということで、実質、娘のための特別ライブをやりながら映画も作ってしまう監督にとって夢のような企画を実現させてしまっているのである。
あまりの凄さに涙が出るぐらい爆笑した。ツッコミどころのある映画?そんなの『トラップ』にとってはネガティブワードではない。最大級の褒め言葉なのである。