ニッケル・ボーイズ(2024)
Nickel Boys
監督:ラメル・ロス
出演:イーサン・ヘリス、ブランドン・ウィルソン、アーンジャニュー・エリスetc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第97回アカデミー賞で作品賞と脚色賞にノミネートされた『ニッケル・ボーイズ』がプライム・ビデオにて配信されたので観た。ストーリーを確認すると、PLAN Bが『それでも夜は明ける』の二匹目のドジョウを狙っている同じような話なのだが、アプローチは全く異なっていた。
『ニッケル・ボーイズ』あらすじ
1960年代アメリカに実在した少年院を舞台に黒人の少年が体験した過酷な状況を描いて全米で話題を集め、ピューリッツァー賞を受賞したコルソン・ホワイトヘッドの長編小説「ニッケル・ボーイズ」を映画化。
ジム・クロウ法という人種差別的内容を含むアメリカ南部諸州の州法が存在した1960年代のフロリダ州タラハシー。真面目で成績優秀なアフリカ系アメリカ人の少年エルウッド・カーティスは、ある時、ヒッチハイクで乗せてもらった車が盗難車だったことから、運転手の共犯として警察に逮捕され、有罪判決を受けてしまう。未成年のエルウッドは更生施設「ニッケル・アカデミー」に送られ、そこでターナーという少年と出会う。ニッケル・アカデミーでは黒人の少年たちに対する信じがたい暴力や虐待、運営者たちの腐敗が横行しており、そのなかで生き抜くためにも、エルウッドはターナーと友情を育んでいくが……。
エルウッド役はNetflixドラマシリーズ「ボクらを見る目」のイーサン・ヘリス、ターナー役は映画「ザ・ウェイバック」などに出演したブランドン・ウィルソン。共演に「別れる前にしておくべき10のこと」のハミッシュ・リンクレイター、「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」のフレッド・ヘッキンジャー、「ブラインドスポッティング」のダビード・ディグス、「ドリームプラン」のアーンジャニュー・エリス=テイラー。監督・脚本は、これまで主にドキュメンタリーを手がけてきたラメル・ロス。Amazon Prime Videoで2025年2月27日から配信。
主観と客観とアーカイブと
本作は恵比寿映像祭で上映されそうな実験映画寄りの作品だ。確かに逮捕された少年が更生施設「ニッケル・アカデミー」から脱出するまでを描いているのだが、ストーリー進行はゆったりとしており、散文的なアプローチとなっている。本作で特徴的なのは、3つの視点が編み込まれている点であろう。基本的にエルウッドの主観ショットで進行する。非黒人である観客でも1960年代アメリカにおける差別や暴力の世界に没入できる仕組みとなっている。ここでの差別や暴力は映画的スペクタクルに陥ることなく、リアルな手触りが意識されている。たとえば、白人老人に杖で腹を押される場面。黒人はジッと時が経つのを待っている。カメラが白人老人の顔を捉える時、なぜ彼が抵抗しないのかがわかる。警察がいるからだ。警察はなだめるように白人老人を連れていき、それを見守るしか黒人はできないのだ。そんな擬似体験のショットが突然、第三者の視点に切り替わり、エルウッドを見つめるショットとなる。このスイッチングの理由が段々と、挿入されるアーカイブ映像と共に判明してくる。実は、1960年代から数十年が経った世界から調査している視点だとわかるのだ。当事者が、歴史と突合を取りながら自分を客観視する様を表象していたのである。『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』で注目された撮影監督ジョモ・フレイの切れ味ある眼差しで紡がれる映像詩に感銘を受けたのであった。