はたらく細胞(2024)
監督:武内英樹
出演:永野芽郁、佐藤健、芦田愛菜、漆崎日胡、山本耕史etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
優先度は低かったのだがTLの評判が高かったので観に行った『はたらく細胞』。こういう動機で観る作品ほど掘り出し物だったりする。すっかりアメリカ映画が忘れてしまったような膨大な人を扱った群れのアクションはもちろん、的確な建築空間の使用、スクリューボール・コメディとしての良さが詰まった年末ファミリー映画であった。
『はたらく細胞』あらすじ
人間の体内の細胞たちを擬人化した斬新な設定で話題を集め、テレビアニメ化もされた同名漫画を実写映画化。原作漫画「はたらく細胞」とスピンオフ漫画「はたらく細胞 BLACK」の2作品をもとに、ある人間親子の体内世界ではたらく細胞たちの活躍と、その親子を中心とする人間世界のドラマを並行して描く。
人間の体内には37兆個もの細胞が存在し、酸素を運ぶ赤血球や細菌と戦う白血球など無数の細胞たちが、人間の健康を守るため日夜はたらいている。高校生の漆崎日胡は、父の茂と2人暮らし。健康的な生活習慣を送る日胡の体内の細胞たちはいつも楽しくはたらいているが、不規則・不摂生な茂の体内では、ブラックな労働環境に疲れ果てた細胞たちが不満を訴えている。そんな中、彼らの体内への侵入を狙う病原体が動き始め、細胞たちの戦いが幕を開ける。
永野芽郁が赤血球役、佐藤健が白血球役でそれぞれ主演を務め、人間の漆崎茂を阿部サダヲ、その娘・日胡を芦田愛菜が演じる。「翔んで埼玉」「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹が監督を務め、「るろうに剣心」シリーズの大内貴仁がアクション演出を担当。
人体スクリューボール・コメディ
まずなんといっても、こちらの方が『人体の構造について』というべきであろう画による説明描写に惹きこまれる。社会主義国特有の長いエスカレーターにより、膨大な細胞が役割のためだけに運動を行う様が肉付けされる。そして、複雑な血管の構造を象徴するように東京国際フォーラムが起用される。メインとなる舞台はゴシック建築があるヨーロッパ調の土地となっている。ゴシック建築は都市集約型の労働環境が整備される中で、激密都市生活によるストレスを和らげるため高い建物や光を取り込むステンドグラスによって癒しがもたらされる。救いを求めるないし救いを与える場として機能するゴシック建築が人体の危機と共に廃墟になっていく様は効果的な絶望感を与える。このように、一見するとバラバラに思える建築様式はまるでブリュノ・デュモン『L’Empire』さながらシステムを語るために密接に関わっており、フィクションならではの強みが活かせている。
また、蓮實重彥が「ショットとは何か 歴史編」でスクリューボール・コメディを《婚約の破棄》と定義していたが、変則的にその流れに準じている点も興味深い。一見すると感情なき細胞の話であるにもかかわらず赤血球と白血球が恋愛関係に陥りそうな危ない橋を渡る。大衆娯楽映画として共感のためにそのような描写は必要だったりするが、決してふたりが恋仲として結ばれることはない。感傷的な場面が幾度となく押し寄せても、同志としての関係性を維持したまま着地する点はお見事である。そして、赤血球のドジにより、問題が発生し、それが人間に影響を与え、修羅場の連続へとなっていく点が本作の新規性であり、スクリューボール・コメディに多層的な視点が備わっているといえよう。
流石にアクションこそは膨大なエキストラを起用した混沌を描きつつも、せいぜい対象と背景の関係性に留まっており、ロングショットもそこまで切れ味は良くないのだが、終盤『デューン 砂の惑星 PART2』さながらのロングショットを決めてきて、油断大敵であった。
これは観て正解、満足感の大きい一本であった。