【カンヌ監督週間 in TOKIO 2024】『ジ・アザー・ウェイ・アラウンド』ベルイマンタロットカードが欲しい

ジ・アザー・ウェイ・アラウンド(2024)
原題:Volveréis
英題:The Other Way Around

監督:ホナス・トルエバ
出演:イチャソ・アラナ、ビト・サンス、フェルナンド・トルエバ、Jon Viar etc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

カンヌ監督週間 in TOKIO 2024でカイエ・デュ・シネマベスト選出作『ジ・アザー・ウェイ・アラウンド』を観た。ホナス・トルエバはここ最近カイエが注目している監督であり、確かにフランス人が好きそうな人生について延々と語り合うタイプである。個人的にはイマイチピンと来ない監督ではあるのだが、折角なので観てみた。今回は理論こそ分かるも、やはりあまり刺さらない作品であった。しかし、この世にはベルイマンタロットカードという面白グッズが存在する知見を得た。

『ジ・アザー・ウェイ・アラウンド』あらすじ

映画監督のアレと俳優のアレックスは15年に渡る交際を終わらせることにする。出会いより別れを祝福すべきというアレの⽗親の⾔葉に従い、同棲解消記念パーティを企画するが、友⼈たちは困惑する。カップルの関係に映画作りを交えたメタな要素も持つロマコメの⼀種であり、ベルイマンやトリュフォーへの⽬配せも嬉しい。⼥性の内⾯や⼈間関係のもつれを描くことに⻑けるトルエバ監督は、スペイン内外の映画賞受賞も多い実⼒派監督のひとり。

ベルイマンタロットカードが欲しい

映画監督のアレと俳優のアレックスが「別れよう」というところから始まる。別に倦怠期が頂点に達したから、致命的な喧嘩をしたからという感じではなさそうだ。映画の製作が終わって、チームが解散するようにお互い、別々の道を歩もうとしているらしい。そして、その別れを祝福する謎のパーティーを開くため友人たちに片っ端からコンタクトを取っていく。観客誰しもが思うであろう「?」の反応を、登場人物全員が示す天丼ギャグを延々と繰り返していく本作はスクリューボール・コメディのスクリューボールとでもいえよう。実際に『レディ・イヴ』や『結婚道中記』といったスクリューボール・コメディのタイトルが引用されていることから、このジャンルの独自視点を見出そうとしていることは明白である。蓮實重彥が「ショットとは何か 歴史編」でスクリューボール・コメディは婚約の破棄の物語である観点から特徴を捉えていたが、まさしく結婚しているものがそれを破棄するかしないかで物語を推進していく点『結婚五年目』に近いところがある。一方で、スクリューボール・コメディは婚約の破棄によって男と女が追う/追われる、翻弄される/翻弄するの関係を形成し、修羅場映画のような宙吊りの連続が物語を推進させるわけだが、『ジ・アザー・ウェイ・アラウンド』場合、基本的に「友人にお別れパーティの話をする」「友人は驚く」「その反応を受けてアレとアレックスが議論する」を進展なく繰り返しているので、全体的に冗長さを感じてしまった。

また、トリュフォーの墓を訪問したりベルイマンタロットカードで占ったりする場面はシネフィルに媚びを売ったような演出にも思え、ベルイマンタロットカードは欲しくなったが、鼻につく映画ではあった。

しかしながら、序盤において強固なショットを提示していたところには惹きこまれる。アレとアレックスがテーブルを囲んで話していると窓の先からご近所さんが語り掛けてくる。ふたりは窓へと向かい話始めるのだが、それぞれが別の窓からご近所さんへと話しかける。別々の道を進むと決意したふたりは、同じ行動を取るものの、同じ空間(同じ窓から話しかける)にはいない様を象徴しており、ここに痺れた。

ホナス・トルエバ監督は『とにかく見にきてほしい』でもラストに映画という装置を使って暴走していたが、今回はさらにパワーアップして迷走したお別れパーティーが爆誕していた。あの多幸感あふれるオーバーラップの連続の中で流れるエンドロールの異様さは今年トップクラスだった。

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