アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方(2024)
The Apprentice
監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マリア・バカローヴァ、マーティン・ドノヴァン、Catherine McNally etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ドナルド・トランプが次期米国大統領に任命された。彼のパワフルで狂気に満ちた行動はどこから来たのだろうか?てっきりマーティン・スコセッシやアダム・マッケイが題材にしそうなテーマを『聖地には蜘蛛が巣を張る』『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシが映画化した。2025年1月17日(金)より日本公開される『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を試写で一足早く観させていただいたのでレビューを書いていく。
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』あらすじ
「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督が「キャプテン・アメリカ」シリーズのセバスチャン・スタンを主演に迎え、実業家で第45代アメリカ合衆国大統領として知られるドナルド・トランプの若き日を描いたドラマ。成功を夢見る20代のトランプが、伝説の弁護士に導かれて驚くべき変身を遂げ、トップへと成りあがるまでの道のりを描く。
1980年代。気弱で繊細な若き実業家ドナルド・トランプは、不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ破産寸前まで追い込まれていた。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き弁護士ロイ・コーンと出会う。勝つためには手段を選ばない冷酷な男として知られるコーンは意外にもトランプを気に入り、「勝つための3つのルール」を伝授。コーンによって服装から生き方まで洗練された人物に仕立てあげられたトランプは数々の大事業を成功させるが、やがてコーンの想像をはるかに超える怪物へと変貌していく。
弁護士コーン役に「ジェントルメン」のジェレミー・ストロング。2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
ロイ・コーンの冷徹な眼差しが怪物を作る
2024年はセバスチャン・スタンの年といっても過言ではない。本作でドナルド・トランプを熱演し、『A Different Man』ではベルリン国際映画祭主演俳優賞を受賞した。『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』では前半と後半とで大きく演技を変えている。御曹司であるが気弱、イキりながら社交界に入りつつも、ロイ・コーンの真顔で語るジョークを前に苦い顔を浮かべている。それがロイ・コーンの精神を受け継ぎ、段々と厚顔無恥の鬼へと豹変していく。ベースとなる性格をアップデートしながら狂気の指導者へと移ろいゆく様を説得力いく形で表現している。
だが、そんな彼を引き立たせるダークホースの存在にも目を向けてほしい。それがロイ・コーン役のジェレミー・ストロングだ。最年少で会員制のクラブへ入るドナルド・トランプへゾクッとさせられるような鋭い眼光を飛ばす。そして、ジョークを言う時も真顔で、まるでロボットのように、もとい死神のように勝利へ向かって迷いなく作戦を敢行する。淡々と脅しの電話を入れ、「攻撃、攻撃、攻撃!」の鉄則を体現しつつも、ドナルド・トランプが電話をする時、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のディカプリオさながらの盛り上げで彼のトークセンスを磨いていく。危険な男であるが、一方で魅力的、厭な奴だがどこか憎めないところにシャルリュス男爵の面影を感じる。
この二人が対照的関係性になるのが興味深い。どんどんと力をつけていき冷徹になっていくドナルド・トランプ、どんどんと弱体化していくロイ・コーン。その中で決別しつつも、師弟関係として再び繋がる瞬間がある。ドナルド・トランプにおける人間的側面を描き出しつつ、あのような人間性が生まれた背景を80年代のフィルムタッチかつドキュメンタリータッチでまるで彼の豹変を間近で観たかのように描く。アリ・アッバシお見事である。
※映画.comより画像引用