『アイヌプリ』歴史のためではない、やりたいから「アイヌ式」を守るんだ

アイヌプリ(2024)

監督:福永壮志

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第37回東京国際映画祭Nippon Cinema Nowにて上映される福永壮志新作を試写にて一足早く観させていただいた。福永壮志といえば、海外ドラマ『Shōgun』『Tokyo Vice S2』の監督を務め、国際的に活躍している新鋭である。日本では、アイヌ文化に迫った作品『アイヌモシㇼ』で知られている監督だが、今回の『アイヌプリ』はドキュメンタリーとしてアイヌ文化に迫った。ある意味、対になる作品となっている。静謐ながら葛藤が垣間見える一本に仕上がっていたのでレビューしていく。

『アイヌプリ』概要

北海道・白糠町で生きる天内重樹(シゲ)。現代人としての日々を過ごしながらも、彼のやり方でアイヌプリ(アイヌ式)を実践し、祖先から続く鮭漁の技法や文化を息子の基樹に伝えている。シゲとその家族の日常を追い、自らのルーツを大事にしながら今を生きる彼らの姿に迫る、等身大の家族の物語。

※第37回東京国際映画祭より引用

歴史のためではない、やりたいから「アイヌ式」を守るんだ

猟師として林に入っていき、動物を一撃で仕留める。その場で切り裂き、命をいただきますと軽く礼をしながら持ち帰る。アイヌプリ(アイヌ式)を実践している家族は、そのアイヌの文化を子どもへと継承する。川へ行き、独特な手法で魚を獲る。細かい礼儀たるものを淡々と教えていき、食を共にする。これは歴史を守る行為としてなのか?「否」と答える。「俺たちは歴史が、文化がというよりも《やりたいから》アイヌプリを実践するんだ」と語る。

一方で、画の端々、言葉の端々から葛藤が漏れ出す。「アイヌプリを守るだけでは生活はできない」と現代的な漁に対してのモヤモヤが語られる。そして歴史と実践を切り離そうとしても差別の歴史は尾を引いている。そういったものも継承されるのか、あるいはただ単に無邪気に歌っているのか分からない不気味さを宿しながら子どもは「オラ、東京さいぐだ」と吉幾三の曲を熱唱する。

カメラは、アイヌ文化の、文章にしてしまうとドライで漂白されてしまうかもしれない繊細な感情の一面を絶対に見逃すまいと彼らを追い続けていく。アイヌ文化を追ったドキュメンタリーとして誠実な内容であった。

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