『催眠/The Hypnosis』催眠療法で禁煙しようとしただけなのに

催眠(2023)
英題:The Hypnosis
原題:Hypnosen

監督:Ernst De Geer
出演:アスタ・アウグスト、ハーバート・ノードラム、アンドレア・エドワーズetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ここ数年、ノルウェー映画が熱い。アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『わたしは最悪。』に始まり、『シック オブ マイセルフ』とヒリついた心理ドラマが相次いで国際的に注目されている。また、先日行われたヴェネツィア国際映画祭でもコンペティションに選出された『LOVE』が批評家の間で話題となっている。北欧といえば、幸福度ランキング上位を占める国が多いイメージがあるのだが、このような心理ドラマの話題作の例を目の当たりにすると北欧は北欧でまた息苦しさがあるんだなと思う。さて、MUBIで先日から配信が始まった”The Hypnosis”は、なら国際映画祭での上映が決まった。せっかくなのでファースト・ペンギン毒味班として観てみた。これが『シック オブ マイセルフ』にも通じる厭な人間ドラマであった。

『催眠/The Hypnosis』あらすじ

André and Vera are a young entrepreneurial couple. They get the opportunity to pitch their female health app at a prestigious competition. Before going there, Vera tries hypnotherapy to quit smoking. From this point, her attitude changes and André starts to behave unexpectedly.
訳:アンドレとヴェラは若い起業家カップル。二人は女性向け健康アプリを権威あるコンペティションに出品する機会を得る。その前にヴェラは禁煙のために催眠療法を試す。この時から彼女の態度は変わり、アンドレは予想外の行動をとり始める。

IMDbより引用

催眠療法で禁煙しようとしただけなのに

アンドレとヴェラは、起業家向けのセミナーで女性用健康アプリのプレゼン準備に励んでいる。ヴェラは、その間で禁煙をしようと催眠療法を試みるのだが、異変が生じる。なんと開放的な人間となり、自分を制御できなくなってしまうのだ。映画は、暴走する彼女と気まずそうな眼差しを向けるアンドレを交差させながらヒリついた間を捉えていく。

起業家向けのセミナーはどこの国も意識高い系が集まっており、「作られた振る舞い」に支配されている。そのような空間をスクリューボール・コメディさながらヴェラの異変によって破壊していく。ラース・フォン・トリアーの『イディオッツ』を彷彿させる気持ち悪さと不快さが駆け抜けていく作品である。催眠かけられた直後からヴェラの行動はパワフルである。英語でプレゼンをしないといけないところをスウェーデン語で、大袈裟な演技をする。講師は「これは、サーカスだ!」とヤジを投げながらもフォローしていく、アンドレは冷や汗ものであるが彼女へ寄り添おうとする。だが、会食の場でハードなジョークで相手を怒らせたり、レストランのウエイトレスと急に談笑を初めて会話空間を占有してしまったりする。

起業家向けセミナーの作られた振る舞いの裏側をめくって行こうとする彼女、それでもなんとか場を鎮めようとする人たちの綱引きが、不快感を通り越して笑いへと変わる。全体的に空気読みたる時間の流れが漂っているので、日本でもウケそう、共感を呼びそうな内容に感じた。