『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』料理とは虚構(シネマ)ではない

至福のレストラン/三つ星トロワグロ(2023)
Menus Plaisirs – Les Troisgros

監督:フレデリック・ワイズマン

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年の東京国際映画祭で観逃していたフレデリック・ワイズマン新作がBunkamuraル・シネマ渋谷宮下にて公開されたので足を運んだ。フレデリック・ワイズマンといえば、ミクロなエピソードを積み重ねてマクロな視点を語る側面があると思っている。『インディアナ州モンロヴィア』では2016年の大統領選の際にドナルド・トランプが重要拠点として保守的な公約を掲げた場所の生活を追うのだが、我々がイメージするような「保守的」とは異なる視点が浮かび上がるものに仕上がっていた。『ボストン市庁舎』では、労働者やマイノリティ、移民などの一筋縄ではいかない問題を実際に足を運びながら整理していく市長の姿を通じて民主主義のありかたを見つめた。今回はミシュラン三つ星の名店「トロワグロ」を追った作品とのこと。実際に観てみると、前半2時間、後半2時間で抱く感想がかなり異なる作品であった。

『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』あらすじ

アカデミー賞の名誉賞も受賞しているドキュメンタリー界の巨匠フレデリック・ワイズマン監督が、親子3代にわたりミシュラン三つ星を55年間持ちつづけるフレンチレストラン「トロワグロ」の秘密に迫ったドキュメンタリー。

樹々と湖に囲まれたフランスの村ウーシュにあるレストラン、トロワグロ。建築家パトリック・ブシャンの手による、周囲の自然と解け合うモダンなレストランでは、オーナーシェフ3代目のミッシェルと4代目のセザール、そしてスタッフたちのあくなき食への追求が日々つづいている。

メニューが創造される瞬間、厨房での調理、食事風景をはじめ、市場や、オーガニックの農園、牧場、チーズ工場へ赴き、人と自然が共存するパーマーカルチャーに取り組む姿などを通して、創業以来94年間、家族で始めたレストランがなぜ変わることなく愛されつづけてきたのか、その秘密をカメラがとらえていく。

映画.comより引用

料理とは虚構(シネマ)だ

4時間観終わって、まず感じたのは構成に問題があるということだ。本作は最後の30分ぐらいになって突然、「トロワグロ」の自己紹介が始まる仕組みとなっている。常連客や一般客との対話の中で、このレストランの位置づけが明らかとなる。2017年2月に田舎町ウーシュに新店舗を構え、ミシェル、セザール、レオの三人が試行錯誤しながら常連客に媚びた保守的な料理を振る舞うか、革新的な風を取り入れるのかのバランスを取り、本作の撮影後にミシュラン三つ星を獲得する文脈なのである。しかし、ラストにその説明を配置したことにより、観客は歪なナラティブに翻弄されることとなる。

前半では、静かにシェフたちが議論を重ねながらミスの改善や地産地消、自給自足の食料調達戦略を練っていく。2時間付近で、とあるお客さんが「料理とは虚構(シネマ)ではない」と語り、映画の骨格が明確となる。料理は映画とは違い、ある種インタラクティブな芸術の受容である。シェフは、システム化しつつも一つ一つは微妙に異なる形、味を持っている。そして、高級レストランとしてお客さんの要望に従い、ひとつひとつメニューをカスタマイズする。単に提供するだけではなく、レストランでの体験に物語を与える。これにより一回性の経験が生まれる。映画というフィルターを通して「料理」とは何かを見つめていくのである。そして、後半にてシェフたちが機敏に道具を揃え連携プレイを行っていく極めて映画的なショットが強調されることにより、料理における虚構と現実の交わりの存在をワイズマンは捉えている。

しかし、この目線で観た時に、後半で突然挿入されるフードトラックの場面やホテルのシーンがあまりにも雑に思えてくる。フードトラックは、「トロワグロ」の世界をより知ってもらうために街に降りてくる活動、あるいは経営戦略によるものなのかと考えるのだが、実際には本レストランの工事に2年を要したため、開店までの期間に行っていた活動の延長であることが分かるのだ。そして、このフードトラックの扱いはこれ以上掘り下げられない。ホテルも同様に、レストランでの体験の拡張として位置づけられていることは容易に想像できるが、具体的な滞在の光景を提示しないため中途半端なものに思える。

そして、なんといっても料理ドキュメンタリーでありながら、盛り付けが割と雑だったり、おいしそうに見えない場面が多く、実は「トロワグロ」、大したレストランじゃないのではと思わずにはいられなかった。

鑑賞後、実際に行った方のブログを読んでみたのだが、4万円ぐらいする割には微妙な感じらしいことが分かった。
※映画.comより画像引用