【アンディ・ウォーホル特集】『エンパイア』8時間の勃起

エンパイア(1964)
Empire

監督:アンディ・ウォーホル

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

1964年6月25日20時から翌朝にかけてタイムライフビル41階で歴史的撮影が行われた。ジョナス・メカスとアンディ・ウォーホルが向かいに聳え立つエンパイア・ステート・ビルディングをひたすら撮影しようとしていたのだ。「8時間の勃起だ!」「最後の30分なんかなんも起きねぇがそのままにしよう」と深夜配信による高揚感から生まれた名言と共に映画検閲などものとせず、撮影を終え、シネマテークでお披露目された。当時のことをジョナス・メカスは次のように語っている。

「映画が始まって10分後、30~40人もの暴徒が劇場から出てきて、チケットカウンターを取り囲み、金を返さぬなら殴って劇場を引き裂くぞと脅した。」

そんな伝説的な作品『エンパイア』、DVDにて1時間に編集されたバージョンを観た。

『エンパイア』あらすじ

A single shot of the Empire State Building from early evening until nearly 3 am the next day.
訳:夕方から翌日の午前3時近くまで、エンパイア・ステート・ビルをワンショット。

IMDbより引用

8時間の勃起

ウォーホルはDVDBOX添付のリーフレットの中で「退屈なのが好きなのだ、何が起こるか分からないからだ」と語っている。アンディ・ウォーホルの初期作は逆説的に「映画とは何か」を語っているように思える。特に『エンパイア』は、その最高傑作だろう。ジェイムズ・ベニングと比べると飛行機が通り過ぎるような場面すらない。しかも、夜に撮影されたので仄暗い空間に聳え立つビルが映っているだけで、何も起きない。映画は地続きの時間を切り張りし、退屈さを切り詰めていくのに対して、本作は真逆のベクトルを向いているのだ。つまり、この虚無を通じて改めて映画が観客の中に定義されていくのである。ウォーホルはどこまで映画論について考えていたかは分からないが、意外な業界から映画論に斬り込んで魅せた作品であり、そういう視点の提示が明確に行えている点で現代アートとして評価できるであろう。