『越後奥三面―山に生かされた日々』生活の記録

越後奥三面―山に生かされた日々(1984)

監督:姫田忠義

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画呑み部で話題となっていた『越後奥三面 山に生かされた日々』が再上映でポレポレ東中野に来ていたので早起きして足を運んでみた。ダム建設が盛んだった時代、日本では『ふるさと』『トラック野郎・一番星北へ帰る』のような映画が作られていたが、本作はダムに沈みゆく山村の生活をアーカイブした作品である。今であればスマホで撮影しSNSで拡散され、ネットの海に沈むような話だが、スマホのない時代ゆえに未知なる生活を緻密に覗き込む、ある種「観る文化人類学書」といった趣のある作品であった。

『越後奥三面―山に生かされた日々』あらすじ

日本各地の生活や民族を記録する作品を数多く手がけた記録映画作家・映像民俗学者の姫田忠義率いる民族文化映像研究所が、新潟県の最奥で自然に寄り添う暮らしを続けてきた山村・奥三面(おくみおもて)の最後の姿をとらえたドキュメンタリー。

新潟県北部の朝日連峰に位置する奥三面では、山の恵みを隅々まで利用する生活が昭和の終わりまで奇跡のように保たれてきた。冬の深い雪に覆われた山では、ウサギなどの小動物や熊を狩る。春には山菜採りや、慶長2年の記録が残る古い田での田植え。夏の川では仕掛けやヤスでサケ・マス・イワナを捕らえ、秋になると木の実やキノコ採り、仕掛けや鉄砲による熊狩りが行われる。

ダム建設による閉村を前に、映画スタッフは1軒の家と畑を借り、1980年から4年間にわたって村の暮らしを撮影。村人たちが連綿と続けてきた山の生活を、四季を通じて丹念に映し出す。2024年4月、デジタルリマスター版でリバイバル公開。

映画.comより引用

生活の記録

映画は年末近くの山村を捉えるところから始まる。大雪に埋まる村を掘り進みながら道を切り開いていく。村の全景を捉え、ミクロレベルでの生活に眼差しを向けていく。にんにくをすり込んだ団子を、いたるところに置く。村人たちが集まり宴を交わす。そして、人々は年を越す。1年の半分近くが雪で覆われている村。春から夏にかけては繁忙期であり、数年先を見越して食料を生産していく。ゼンマイ、栗、ヒエなどを時間と労力のかかる作業を経て加工していく。子どもたちも学校がなければ手伝うこととなる。インターネットなどない山村なので、ゆったりと時間が流れる。その時間は過酷であるが、人と人との繋がりがその過酷さを乗り越えていくのである。

映画は自然体の生活を捉える中で思わず「あっ!」と声が漏れる危険も余すことなく捉えていく。一本の木から船を作り、川へと運んでいく過程で、雪にズボッとハマり落ちていく人を捉えていくのだ。フリードキン『恐怖の報酬』さながらの怖さがそこにはあった。

こういうアーカイブ映画がデジタルリマスターされ、時を超えた現代に伝えられていく。こうした活動の重要性を噛みしめた一本であった。
※映画.comより画像引用